SSS


サクラの作る料理というのが絶品だという話は諜報部のなかでは常識だ。料理好きなシドレも舌を巻くほどに。サクラがその料理をまともに作って差し出すのは同じボス補佐のリカだけだった。



「シドレたちが今日もお前の料理が食べたいと言っていたぞ」

「俺の料理じゃなくても腹は膨れるだろ」

「いい加減に作ってやったらどうだ? 懲りずにあの子たちは言い続けるぞ?」



リカの小さな手に見合わないナイフとフォークが肉を切る。小さな口にぱくりとそれが吸い込まれる様子を見て、サクラは視線をそらした。
容姿のみ幼いリカは、そんな年下の仕草をみて微笑ましく思う。



「胃に入ってしまえばどの食事も同じだ」

「ふふ。結果が同じでも過程が違うのだから食事に対する思いも変わるものだぞ?」

「もうリカに夕食を作らない。雑草でも食ってろ」

「そう拗ねるな。私が悪かったよ」



上品に、リカはまた食事を口へ運ぶ。味わって咀嚼するリカにサクラは作りがいを感じているが、そんなことは言わない。
よい家の出であるリカは上品に食べるため、サクラはこうやってリカに食事を用意して食べる姿を見守っている。リカは、勘づいているだろう。リカの食べる姿がサクラの料理する意欲になると。
シドレとアイとワールも食事のマナーをかなり気にするほど名が知れた家の出身だが、サクラはリカの、食べる姿が好きなのだった。



「……あれ?」



辞書ほどの分厚い本を片手にツバサが部屋に現れた。紅茶を淹れに来たのだが、たまたまリカとサクラがいて、驚くときに使う台詞を言う。



「あ、ツバサっ。ポットを持っていくのを忘れていた……!」

「ああ、いいよいいよリカ。食事してて」



本を手のかわりに振って断る。ツバサが仕事の合間に現れたというのはそれだけで想像できた。
サクラが席をたち、本来はリカがやっている――今からツバサが紅茶を淹れようとしている作業を横取りした。



「ありがとう。それにしてもサクラが淹れるなんて珍しい。リカと何を話してたの?」

「……別に。これをシドレたちに分けて欲しいだけだから」



紅茶にこだわりがあるツバサの好みに合わせてサクラは淹れる。ツバサが文句を言わないのでツバサの好み通りなんだとほっとしながら、サクラは紅茶を用意した。



「ん」

「紅茶を淹れてあげるくらいなら素直にシドレたちへ食事を用意してあげたら? 一回くらい」

「う、うるさい! さっさと仕事してこい!」

「はいはい」



読心能力を使ったのではないかと疑うほどのツバサの観察力にサクラは驚かされたが、そのそばでリカはクスクスと笑っていた。
歳上にからかわれてサクラは顔を赤くすると、すぐにもとの場所に戻って顔をからだごとそらしたのだった。

 

2013/05/24 08:57



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