その他




これがどうしようもない体質だと言われればそうかもしれない。しかし納得はできない。受け入れることはできるけど、理不尽だと思う。

トリップ体質。

小説の中でしか聞いたことがない体質だ。しかし私がその体質であるのだからあまり他人事とはいえないのかもしれない。それは不本意に異世界を渡る体質。
私がこんな体質だなんてはじめの頃は想像もできなかったのだが、覚醒して何万回とトリップをする度にそんなこと、なれてしまった。あ、でも回数は数えてないから本当に何万回なのかは保証しかねる。時空間を無視して次元も越え、見知らぬ土地に降り立つのは恐怖だ。いまのところ、運がいいのか安全な地上に降り立っている。ちなみにこの場合の安全な土地というのは未開のジャングルや上空、地中、海の上、戦場など、回避もできない状態の土地が当てはまる。

別の次元の、江戸時代。どうみても堅気とはおもえないヤクザのような組織のアジトに降り立つことは、安全な土地に当てはまるのだろう。私はそんなところに、今回は落ちてしまった。連れの少年はどこへ行ってしまったのか、見当たらない。

私は現在、地下の牢屋にいた。畳が敷かれて、鉄格子の変わりに木製の檻に閉じ込められている。私を前にしてガラの悪い男数人がゲラゲラと下品な言葉を並べて笑っている。彼らのいう下品なことはどうでもいい。私は連れの少年の居場所と私の今後の対処について知りたくて静かに耳を済ませていた。しかし彼らの口から私の知りたい情報はなかなか出てこなかった。仕方がなく、私は閉じていた目をうっすらあけて周りの情報を手に入れようとした。
気温は寒くもないし、熱くもない。季節は夏か冬ではないだろう。春、もしくは秋だろうか。肌に感じる温度は「あたたかい」。春だろうか。

ふと男たちが奥からのかけ声に一度会話をやめるとその奥へと消えて行った。



「なんなんだろう……?」

「葵ちゃん! 元気!?」

「わあっ!? と、智将くん!?」



私は驚いた。いないと思っていた連れの少年の声が聞こえたのだ。肩を震わせて裏返った声をあげた。くすくすと抑えて笑う声がどこらかする。牢のなかでは声が響いていて、近づいてくるのはわかっていても、その位置を特定することはできない。



「うん、元気そう! 俺も安心したよ」

「な、なんで……」



笑顔で牢の外から連れの少年――智将くんが現れたので私は驚いた。心配はしていたけれど不意の登場に心臓が鳴り止まない。
智将くんは口元に人差し指をたてて「静かに」とジェスチャーで伝えたので私は従った。智将くんは鋭い目で辺りを確認するとポケットから鍵を取り出して牢屋を解錠した。いともあっさり。



「あ、ありがとう……。でもその鍵、どうしたの?」

「番人が居眠りしたからこっそり拝借したんだよ。それより、早く出ようよ! こんな不衛生で陰気臭いところ居たって楽しくないでしょ。城下町に出ようよ!」

「居眠りした、ね……」

「それとも、葵ちゃんを捕えたここの人たち、皆殺しにする?」

「し、しないしない! 城下町に行こう! 楽しみだな!」



智将くんは満足した笑みをみせて牢屋から私を連れ出した。しかしこのとき、私に寒気が襲った。この感覚は……、ああ、もう時間らしい。



「智将くん、もう時間みたい」

「ええー?」



ほほを膨らませて拗ねた顔をした智将くんは私の手を強く握った。痛い痛い。でも私の意志に関係なく不本意にトリップをするんだから、私に当てられても困るよ。
時も場所も場合もなんにも考えずにトリップしてしまうんだから本当に困ったものだよ。

……どうしたら治るものかな。




2013/02/28 08:30



prev|TOP|next


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -