SSS



今日もずっと機械とにらめっこしていた。去年に我がボス様にスカウトされて入社したレイカという少女はよく働く。歩く辞典のようで大助かりだし、頑張って仕事をする様は可愛いし、気がきく。少し下品なことを付け加えるなら、胸が大きくてスタイルが良い。数が少なく男ばかりのむさ苦しい機械開発班にこんな女の子がやってくるなんて、待ちに待った癒しだ。

だが、そんなレイカがいても俺の肩は重い。食堂にいても炭酸水しか飲めないほど食欲もないし、目も心なしか虚ろな気がする。
時刻はもう20時。やばいな。そろそろ暗殺部が集団で飯を食べに来る。あいつら存在が怖いんだよな。おんなじ暗い色をしたコートを着る集団が。傭兵なんかよりも。たった八人だけ、なんていう独特とした集団。誰にも知られず息を殺して標的も殺す。あいつらが後ろに立った時やすれ違うとき、寒気がする。陽気に笑うやつも中にはいるが、その瞳の奥はどこか冷めている。暗殺をしてる奴なんかの瞳がキラキラしてたら困るんだけどさ。



「こんばんは。今日もお疲れさまです」



コップの水面に映る自分の姿を見ていたら、後ろから疲労の原因である上司の声がした。サレンだ。いつも奇妙に笑っている研究員。こいつがいつもの笑顔で俺の机に大量の書類を置いたのがそもそもの要因だ。機械開発班は圧倒的に数が少なく人員不足。そこに開発依頼の書類だ。目が回ってしまう。



「食欲がないのですか?」

「誰のせいだと……」

「頼りにされてるんですよ。機械開発班は」

「もっと人員を増やせないんですか」

「それは私の管轄外ですねえ。リャク様かナナリーに申し出てください」

「二人ともあまり見かけないんですけど」



あははは、と笑って見せるサレン。胸の内で睨み付ける。胸の内だけでしか睨めないのは立場上、仕方がないことだ。



「おやおや。暗殺部がご来店です。相変わらずゾロゾロとコートを着ていますねえ」

「……あ」

「珍しい! ウノ様とナイトまでいる。全員揃ってますよお」



彼らも仕事で疲れたりするのだろうか。ゾクゾクと寒気で背中が震える。彼らの纏う雰囲気は誰も寄せ付けないようなものがある。
炭酸水を飲みほした。もう席を外そうと椅子を引いて立ち上がった時だ。サレンは嬉しそうな声を出した。



「……それは武者震いですよ」

「はい?」

「それは武者震いです。研究者ならではのどうしようもない好奇心。楽しみですね。あなたが彼らをサポートする日が」

「あの、意味がわからないのですが」

「ヒントでした。答えは自分で追うからこそ楽しいもの。存在があやふやな答えを信じて突き進む我々は同じ研究者です。答えは聞いてしまったらつまらないでしょう?」

「……」



眠気が覚めたような気がした。上司に指摘されるまで俺は笑っていることに気が付かなかった。ああ、これは仕事なんかじゃない。仕事として機械を作っているんじゃない。楽しくて機械を作っているんだ。

足は機械開発班の研究室に向かっていた。





2013/02/09 17:59



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