SSS



鬱陶しいくらいに青々と生えた植物に囲まれて、ツバサは数メートル離れたところにいる犬猿の中であるリャクを嫌々ながらも認識しながら言う。



「ヘリからパラシュート無しに突き落とされた俺たちはどうしたらいいの。ていうか、ここどこ?」

「ふん。なぜ貴様が生きている。落ちたなら死ね」

「残念。俺は不死身なんで。リャクこそ死になよ」



リャクは上から落ちてきた木の葉を白衣から払い落とした。



「貴様と違ってオレは天属性を開発した魔術師でな。落下した程度では死なん。嘗めるな爺」

「へえ、喧嘩売ってるわけ?」

「条件反射だ」

「それはそれは、素敵な条件反射ですこと」



互いに殺気を隠しもしない。二人きりの状態で数分も殺し合いを始めていないのはむしろ奇跡に等しい。二人が殺し合いをしないのは、落下した場所がどこなのかわからないからだ。知らない場所で問答無用に暴れるほど二人の頭は馬鹿でない。
ツバサは木々の葉で覆い隠された空を見上げた。太陽の位置を探す。
リャクは探索系魔術を発動し、居場所を突き止める。



「南の方まで来たね。時間は15時くらいかな」

「海洋国のオウギョ諸島西部にある小さな第二島だ。知的生物はいない」

「無人島か。船も飛行機も通らないね。魔術でひょいっと帰ろうよ」

「貴様は餓死しろ」

「その願いは叶いませんよ」

「残念だがオレは転移を専門にした魔術師ではない。超遠距離転移に使う詠唱が中級魔術でも長い上、座標指定する計算が面倒だ。まあ安心しろ。帰るとしてもオレ一人だ」

「孤独死しろ」

「そういう貴様は不老不死である前に多重能力者だろうが」

「割りとこの状況気に入ってるから。そこの微生物以外」

「今すぐ塵となれ」

「頭がブッ飛ばないように首に気をつけなよ? 可愛いリャクくん」

「ッ、死ねぇッ!!」



彼らの殺し合いはすぐに始まった。無人島であることをいいことに、出し惜しみはしない。
詠唱を不要とするリャクの最下級、下級魔術は上位魔術師にしか行えない同時発動で威力を補い、回避無効の魔術を仕掛ける。それに対してツバサは全く動じない。多重能力者であることを極限まで利用しないツバサであるが、リャクの攻撃は別だ。極限を待っていては死ぬ。異能を一部のみ解放し、リャクの攻撃を『空間歪曲』で徹底的に防ぎきる。



「バーカ。後ろ、がら空き」

「来世はアドバイザーになる予定か?」



『空間歪曲』のみならず『空間転移』を使用し、ツバサはリャクの後ろに現れた。リャクへ伸ばす手には何もない。空っぽ。それで十分なのだ。
ツバサが背後に現れることをすでに予測していたリャクは冷静を貫き、下級魔術で無数の氷の破片を造り出した。それはツバサ一点に認識できないスピードで集まる。



「!」

「Stupid……!」

「うぁ、っ!?」



リャクよりも先手を読んでいたツバサはさらに『空間転移』を使用した。リャクの足下、地面を数十メートルを跡形もなく転移させ、深い落とし穴を造り上げてしまった。リャクは驚き、その間にも落下していく。ツバサが転移させた地面は、次の瞬間、穴を塞ぐように元の位置に戻った。だが、その刹那ツバサの真横から石像のように白く美しい女性が現れた。女性は剣を振ってツバサの腹を割く。続いて銀色の宝石のような鎖がツバサを縛り上げてしまった。空間転移をしようにも、それが不可能。その状態にいるツバサを女性は剣で心臓を串刺しにしてしまった。しかしツバサは不気味なくらいににやりと唇を歪ませる。己を串刺しにした剣を片手で掴み、そこから流血するのも構わず引き抜いた。女性はその瞬間、粒子のように消えた。鎖も共に消える。

数秒遅れて唐突に霧が現れて、リャクの姿を作り出す。リャクは舌打ちをしてツバサを睨んだ。



「何をした?」

「封術でも使ったんじゃない? 俺、多重能力者だし」

「貴様の頭は爬虫類か。詠唱が短すぎる」

「天才と呼ばれるその頭脳で考えてみなよ。聞かれたってチビに答える義理はないし」

「もともと貴様が生まれた瞬間から持っている異能か?」

「……俺のことどこまで調べてるわけ? 気持ち悪いんだけど」

「それを貴様が言うな。人類だと認識したくないくらいに気色が悪いのは貴様だぞ。鏡を見ろ」



口喧嘩を続けながらも一旦は落ち着き、二人は「帰ろう」ということになった。殺し合いをしたところですぐに決着はつかない。無駄に体力を消費するより帰ることを選んだ。
さっそく、リャクは演算とともに詠唱を開始する。その間、ツバサは隙で仕方がないので帰ったらどうやってリャクを殺そうかと考えていた。


2013/01/03 13:29



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