トリップ少女☆葵




「そこら辺にある家具は好きなように使え。お前はナナリーと同じで東洋人っぽいからな……。東洋人だろ」

「は、はぁ……、えっと、日本人です」

「ニッポンなんて知らん」

「ツバサさんは懐かしいって言ってましたけど……、ないんですか?」

「異世界だからな」

「……よくわからないです」

「この部屋でなにか分からないことはあるか」

「見て廻ってきてもいいですか?」

「……」



ひいいい、この人怖いよ!
表情が変わらないし必要なこと以外喋らないから何を考えてるかもわからない。髪で顔の半分しか見えないところだとか、なんで俺がこんな餓鬼の世話をしなくちゃいけねぇんだよ、みたいな雰囲気が怖い!

サクラさんから離れて、部屋を見て廻りながら自分の着ている服を見た。学校の制服だ。周りに誰一人知っている人がいない世界で制服だけが私の味方でいるような感覚だ。急激にこの制服に愛着が湧いた。

突然この世界に来て、いつ帰ることができるのかわからない世界。ツバサさんやミントさんは優しくしてくれるけれど不安で堪らない。



「お前、好きな食べ物ってなんだ」

「うへぇっ!?」



変な声でた、変な声でたっ!!
突然話しかけてきたサクラさんに驚いてついジャンプをしてしまった。変な声どころか変な人だと思われるよ!



「好きな食べ物」

「お米とブロッコリーと……」

「素材じゃない」

「オムライスとお味噌汁と焼き魚とお刺身とか、あ、ラーメンとうどんも好きだよ。あとね、あとね」

「あっそ」

「肉じゃ……」



サクラさんはくるりと向こうを向いてしまった。まだ話している途中だったのに。なんだったんだろう……?

私は首を傾げて寝室を見渡した。私に与えられた部屋は二つ。リビングと寝室だった。六畳くらいの部屋で、リビング繋がって台所や脱衣所、トイレに繋がっている。
ベッドに飛び込むと、ふかふかの軟らかい布団が私を包んだ。あったかい。













「おい、起きろ」

「……うっ」



頭を叩かれた。寝ていたらしい。目の前にサクラさんがいて、また頭を叩こうとしたのか手を挙げていた。



「飯」

「ごはん……?」



サクラさんは私の返事を聞くことなくそのままリビングの方へ消えていった。自分勝手な人だなぁ……。
私も起き上がり、サクラさんの後についていった。とたんに香るのは懐かしいとさえ感じるオムライスの匂い。ぐぅ、とお腹が鳴った。時計をみると、それはすでに正午を指していた。


2012/11/30 12:16



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