▼ サガシモノ 「だから無茶するなって言っただろ……」 「行けると思ったのよ」 足首を擦りながら保健室で陽香は頬を膨らませた。その隣で理貴は呆れたように首を振った。 さきほど、陽香は校舎と校舎を飛び越えようとした。超人的な身体能力を持たない陽香が飛び越えられるのは精一杯頑張っても五メートルも飛べない。陽香が跳ぶのは五メートル先にある屋根。校舎の一部はそれほどまでに接近しており、陽香が飛ぼうとしたその真下には渡り廊下が特別館二階と体育館二階を繋いでいた。ハラハラしながら理貴はすぐに陽香が拾えるよう、魔武器の準備をした。状態変化で氷を作り、それを土台に氷を砕いた雪をクッションにしようと考えたのだ。 陽香は見事に落下し、理貴のフォローにより大事には至らなかったが、足首を捻挫した。 『おい坊主。どうせなら嬢ちゃんを家まで送ってやんな。お姫様だっことかしてよぉ』 (放課後だし、そりゃあ送って……え? お、おんぶでいいだろ!) 『なぁーに寝惚けてんだ。それとも照れ隠しか?』 (そんなんじゃ……っ) 『あの嬢ちゃんが大人しくおんぶされるとでも思ってんのかよオイ。少し羞恥で大人しくさせねえと、怪我すんのはお前だぜ?』 (確かに自分で歩けるって暴れそうだけど……) 理貴が突然静かになったのが不思議に思ったのか、陽香は「……ねえ」と珍しく控え目に理貴の袖を摘まんだ。摘まむという可愛らしいものよりも腕を掴むに近い。 「怒ってる?」 「いまさら陽香の行動に怒ることなんてないって……」 『お姫様だっこ、お姫様だっこ』 (うるさい!) 『なら交替だな』 (は……) …:…:…:…:…:…:…:…: 「……ぇ?」 理貴は身に起こった出来事が理解できなかった。しかしすぐに理解して〈モルス〉に対して小さな怒りを覚える。 自分が陽香を横抱き(お姫様だっこ)をして帰路についていることなど、だれが予測できたであろうか。 〈モルス〉が強制的に理貴の魂を後退させ、自分が表にでたのだ。その際に理貴を眠らせることも忘れていない。 「だから歩けるわよ! 私が持ち上げられているなんて情けない!! 平気よ!! それに勘違いされたら困るのよ!」 「悪い……、けど怪我してるし」 「うっさいわね!!」 頬を膨らませてツンと怒る陽香を宥めるように言い、理貴は〈モルス〉の悪戯心に陽香と同様の顔を胸のなかでした。 陽香を家に送ると、家にいた涼、秀政、銀に変な目で見られた。それ以降、涼は「うちの妹を口説きやがった、家の裏に来い」と体育館裏ならぬ喧嘩の売り方をするようになり、隻眼双子は「破廉恥です」「非常に破廉恥ですよ」と言うようになった。 2012/11/30 08:06 |
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