▼ コラボ リャク・ウィリディアスは運が悪かった。 たまたま、偶然、最悪な日常に踏み入れた。可能性がないわけではなかった。どこにでもある穴だった。博識な彼はそのことをよくわかっていたはずだ。よくわかっていたからこそ、自分の身にふりかかるとは思っていなかった。だからこそ、それは不意に捲き込まれることを知っていた。神の存在は信じていないが、まさにこの状況は「神の悪戯」。「神の」と「悪戯」の間に「質の悪い」をいれたほうが良いのかも知れない。その童顔に苛立ちを表し、彼の周囲には漏れた特殊な魔力が、空気に中和されずバチバチと静電気を起こして弾けていた。静電気と呼ぶには強い光が時々なるが、彼はそんな些細なことは気にしていなかった。 異世界。 時空間がバラバラ、世界になる法則のほとんどが別物。人間も歴史も成り立ちも違う。そんな異世界に突然リャクは現れた。 見渡す限りでは木に囲まれていて、もとの世界と同じだと思いがちだが、そこに生える植物はリャクの知らないものが混ざっている。 この世界がどんなところなのか判断するために植物はいい材料。リャクはみずみずしく青い葉に跪いて触れた。そっと呟くような小さな声で詠唱をしたその時だった。 静かだったそこに遠くで轟音がなるのがわかった。次いで悲鳴。 魔術で葉の情報を引き出すのをやめて、リャクは立ち上がった。 「十闇、ありがとう」 「ううん。イヨ、今回も頑張ってね」 「お前もな」 違和感を覚える異常を察知した直後、風をきるような音がしてリャクはそちらを見た。 二人の男女が唐突に現れ、男のほうがすぐに消えた。空間移動のようだな、と目を細くしたリャクは異世界の住人らしい残された女の方に話しかけることにした。 女が現れたのは数メートル先。女もリャクの気配に気づき、しかし敵意がないことも気付いていたため、振り返ったもののそれは睨むだけだった。 リャクはいつも纏わせている雰囲気をどこかに隠し、口を開いた。 「すみません、道に迷ってしまったのですが――」 「……子供?」 リャクはすぐに気がついた。彼女は拳銃を持っている。見定める目は生死をかけて戦う人間がもつもの。 「お前、誰だ?」 彼女の質問は直球だった。 2012/06/30 09:18 |
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