▼ SSS と サガシモノ 「ソラって物凄く視力がいいのね」 ……しまった。 視力検査でつい手を抜くのを忘れて雄平の悪戯に引っ掛かってしまった。 視力検査に使うボードにはいろんな角度に傾いた「C」の文字が大きい順に上からずらりと並んでいるのだが、その一番したに鉛筆で小さく米粒くらいに書かれた「C」があった。鉛筆で薄く、小さく書かれているものだから通常ではとても見にくく、気づかない。 たまたま視力検査で測る人が雄平と陽香なんていう最悪なコンビ。後藤さんと雄平なら、理貴と陽香なら悪戯なんてなかったかもしれないのに。 陽香と雄平にさんざん視力が良いと騒がれたその日の帰り。 今日は一人で帰るわけだし、メモ帳に思い出した記憶について書いてみて整理してみようと、考えていた。しかしもうすぐで家に、というかアパートにつくという直前でメモ帳そのものが無いことを思い出した。たしかコンビニが近くのトンネルを抜けた先にあったはずだ。不良がたまに群がっているらしいが、まあ、昼間からはいないだろうとオレはアパートの横を通り過ぎる。 「あ、ソラ」 「あれ、後藤さん? 図書委員の仕事じゃないの?」 「えっ? あ、ああ、うん。副委員長がもう帰っていいって」 「そうなんだ。後藤さんの家はこっちじゃないけどどうしたの?」 「そう! 私はソラに渡すものがあったんだよ! はい、宿題」 「……わざと忘れてたのに」 「ほら、私も一緒にやるからかんばろう?」 「後藤さんが答えを教えてくれるなら」 「答えは教えません! やり方を教え……!」 後藤さんがオレにたいしてツッコミを入れているときだ。横を人影が猛ダッシュで通りすぎ、後から日本人とは思えない髪の色をもった眼帯の少年と黒髪の青年が追いかけていった。 「な、なに、いまの!?」 「……まあ、忙しいんでしょ。オレはコンビニ行くから後藤さんは先に上がってて。すぐ戻るから。これ鍵」 「あ、うん……」 あの人影が行った方向ってトンネルの方だよな、鉢合わせしませんように、と思いながら後藤さんと別れた。 いた。 やっぱりいた。なんか険悪なムードだ。 通り抜けないといけないんだよな。後藤さんを待たせるのも悪いし。オレ関係ないから見過ごしてもなえないかな。 まあ、いざという時は全力で逃げよう。異能者だという自覚をしてから身体能力も全体的に上がってるし、きっと大丈夫。 何事もなく平然と通り抜ける作戦を始めた。 失敗した。 一瞬だ。目付きの悪い学生に睨まれた。 「……え」 そう思ったのもつかの間、なんか、破片がとんできた。 なぜ破片、何の破片、どうしてオレに目掛けて真っ直ぐ? 「危ない!!」 「伏せなさい!」 さっきすれ違った人影だ。 冷静に考える時間も、状況を判断する時間もあった。オレの目には遅くとんで見える破片。 つまり、だ。あの目付きの悪い学生――というかあの人、副会長じゃん。とにかく、副会長は眼帯の少年と黒髪の青年と険悪。眼帯の少年にいたっては本物の槍を握っている。 副会長はオレに攻撃を仕掛けている。 「詳しいこの状況は知らないけど……」 お菓子しか入っていない軽い鞄を肩にかけたままとんできた破片を掴んだ。足を一歩引いて、取りやすい立ち位置になってから左手だけで。 周りは唖然。 この行動で、副会長を退けたあとに陽香から「参戦部」なんて意味のわからないことで有名な部活に勧誘されることになる。そして魔武器という、異能者として身の危険を感じる物を扱うことになる。 2012/06/29 12:31 |
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