その他(トリップ系)



……?
あれ?

私が異変を感じて目を覚ましたのは妙にそこが寒かったから。
夏、クーラーをつけたまま横になっていたのが私の記憶に残る最後の記憶。クーラーをつけたまま寝てしまったのだろうと予測できる。
だから寒いと思うのは当たり前なのかもしれないけれど、それはクーラーによって作り出された涼しい空気とは違った。涼しいんじゃない。冷たい。

眠りから意識が浮き上がり、まぶたを開けて周りをみて私は驚いた。
だって、ここ、私の知らない場所――。



「あ、起きた?」



どうやら仰向けに寝ている、部屋が白くて薬品の匂いがつんと鼻をつつく、そこまでの情報をつかんだとき、右側から男の人の声がしてそっちをみた。
金髪と紫に近い碧眼が私をさらに驚かせた。彼の表情よりも、その髪と目の色が。私は純日本人だ。日本人は黒髪と黒目。髪を染めるたりカラコンをしたりする人がいるけれど、私の身の回りにいる人は変色させていない。見慣れない金髪碧眼に目がくぎ付けだった。この男の人は金髪に黒く染めた髪を混ぜているが、私はただその色に驚いた。日本人のほとんどは黒髪だ。それなのに、この人は金髪。



「だ、れ……?」



掠れた声だった。
それが少し恥ずかしい。



「君を拾った人。第一発見者が俺でよかったね。俺以外の奴だったら漬けられたり殺されたり」

「!?」

「あー、冗談だよ」



あはは、と笑う男の人の口調は優しい。笑顔も手伝って、なんとなく悪い人じゃないかも、と思えた。今さらだがこの男の人の顔が整っていることに気付いた。うらやましい。



「ここは医務室。君は廊下に倒れてたけど、どこから来たの?」

「……あの、ここ日本ですよね?」



男の人が金髪碧眼で外国人らしいから不安になっていたことを言ってみた。私は日本から出たこともなければ飛行機に乗ったこともない。日本であることは当たり前なのだが、どうしても不安になった。肯定の言葉を期待しながら首を傾げる。



「日本……、懐かしいな」

「え?」

「どうやら君はソラをこっちに連れてきたときに事故で来ちゃったわけか」

「?」

「よし。単刀直入に言おう。ここは君からみて異世界なんだよ」

「……いせかい……?」



聞きなれない言葉だけど聞いたことがある、その言葉。
急で意味が理解できなかった。けれど少し時間が経てば意味が嫌でも解る。でもそれが実感できるかどうかはまた別の話。
でも倒れていたという事実やここにいること、目の前の人物など、浮かんでいた謎はその三文字で片付いてしまう。



「あの……私、どうしたら……」

「もとの世界に戻れるまで俺が君の保護者になるよ。方法は検討がついている。大丈夫」



また彼は笑って私の頭に優しく手を乗せて撫でてくれた。初対面なのにどうしてこんなに安心ができるんだろう。
お母さんと一緒に引っ越したお兄ちゃんを思い出す。私はお父さんと一緒に住んでいる。お父さんとお母さんが離婚したわけじゃなくて、気まぐれなお母さんにお父さんが振り回されただけというか。うちの両親はなかよしだがら、離婚なんていう言葉とは縁がない。



「ありがとうございますっ。えっと、これからお世話になります」



上半身だけ起き上がって深々と頭を下げた。彼は「礼儀正しくて結構」と言う。



「こちらこそこれからよろしく。俺の名前はツバサ。君は?」

「花岸……葵。葵でいいです」






2012/01/16 10:51



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