SSS



まるで雷のような、あまりにも唐突で、一瞬の強音で、恐ろしい何かを連想させる音がとある研究室に響いた。



「聞けナナリー!」

「はっ、はい!なんですか?リャク様」

「ナナリーだけじゃない。そこのモブ共もだ!」



部屋に現れたのはリャクだった。少し汚れた白衣を翻し、重たいドアを開ける。中で熱心に数学式を書いたり実験をしたり記録をしていた者はナナリー含め全員驚いて肩を弾かせた。
モブと称された複数の成人式を済ませた人間はそう呼ばれたことに対してなにも言わず、ただ作業を止めてリャクの行方を見守った。



「やっと身長最下位から脱した!」

「ええー!?」

「ぷっ」

「おい誰だ今笑った奴は!!前に出ろ!体裁を与え――」



リャクの言葉が遮られた。その遮った張本人であるナナリーはリャクを抱き締めているような状態。モブの「またか」という空気を読まずナナリーは息づかいを荒くしていた。リャクのテンションはみるみるうちに下がる下がる。



「そんなことで喜ぶリャク様が可愛いです!これだからうちのショタはっ!」



毎度のことで、リャクは反論する言葉も面倒になり、出そうになった罵倒を呑み込んだ。かわりにため息をつき、ナナリーと薬品の混ざった匂いを吸った。ナナリーはそれを良いことに、力任せに自分よりも小さな彼を抱き締める。



「……ナナリーは、幼い人間が好きなのか?」



ふと、今まで思っていた疑問を呟くとナナリーの力が弱くなった。
ナナリーはリャクの疑問の意図がすぐにわかり、今度は優しく抱き締めた。



「そうだと言えますし、そうでないとも言えます」

「そうか……」

「小さなリャク様が好きですよ。リャク様が突然、本来の年齢にそった姿になっても、私の身長を越えるくらい大きくなっても敬愛します」



優しく歌うように囁くナナリーの声に耳を傾けていた。周りのモブたちも頷きながら静かに聴く。



「まあショタのほうが色んな意味で美味しいから萌えますけどね!ふぇっへっへ」

「やはり貴様に体裁を与えてやるべきだな」



一瞬の穏やかな雰囲気はどこへやら。
速答したリャクはナナリーの腰に腕をまわし、今度はリャクが力任せにナナリーを絞めた。ナナリーが気絶するまで締めるリャクの鬼畜ぶりに、モブが震え上がったのはいうまでもない。そして、それでもナナリーが反省しないのもいうまでもなく。また、信頼関係が崩れることもなかった。




2012/05/28 00:08



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