▼ SSS 「なぁーんかさぁ、ごめんね?」 窓がない、緑一色の部屋に立つのは金髪の若い青年。正確な年齢はこの際関係ない。 彼はツバサ。組織のボスを担っている。その戦闘力は非常に高い。普段はやる気なく、仲間からの攻撃を適当に受けているが、戦闘時に彼を傷つけることはたとえどんな相手でもありえない。否、同じボスであるリャクと収集家の二名は彼を傷つけることが可能だろう。 そんなツバサの足元に横たわるのは裸体の女。綺麗な茶髪が美しい肌と奇妙な床に散らばり、それがお伽噺に出てくるお姫様のような印象を受けてしまうほどだった。 長い睫毛は今は閉ざされていて、本来の美しさは闇の中だった。 「でもこの程度の覚悟はあったよね?」 ツバサは足を曲げて、彼女の顎を手でもって自分の方へ向かせた。震える睫毛に意識があることを確信したツバサはさらに続ける。 「まだ喋る気はないかな?」 「……」 彼女はつい数週間前にツバサの部下になったばかりの人物だった。とはいっても、アルバイトのような感じ。立ち話でいうなら下端だ。 彼女はツバサたちと敵対する組織のスパイだったのだ。 敵対する組織などいくらでもある。ツバサは現在、それを含めて手荒な方法できいていた。 ツバサやリカ、サクラなどは彼女がスパイだと知っていた上で雇っていた。ツバサが「だってあとで面白いことがありそうでしょ?」と言ったから雇ったのだが。 「喋る気はない?」 「……」 「今喋れば楽に殺してあげるよ?」 「……」 「なんか俺ひとりごと言ってるみたいだから何か言ってよ」 「……」 「仕方ないなぁ」 ツバサが顎から手を離して彼女の右手をもつ。それをまじまじと見て「綺麗な手だね」とほめた。 「身体で俺を落として情報を盗もうなんて安易な策…。俺は男だけど性欲ってあんまりないんだよね。残念。性行為よりもこっちの方が大好きだからさ」 バ キ ン 「あ゛ぁ゛あ゛ッ」 ツバサが彼女の指先にある爪を素手で剥いだ。口を歪ませて笑みをつくる。爪がない指をつたう血を舐め、ツバサは次の爪も、次も次も、次も次も次も次も次も次も剥いで剥いで剥いで剥いで剥いで剥いで剥いで剥いで剥いだ。 彼女の悲鳴を心地良さそうに聴き、己の指から彼女の透き通るような白く、赤い手を落とす。 血の小さな水滴が弾いてツバサの服に付着すした。 抵抗しようと起き上がる彼女の頭を手でつかんで床に叩きつける。―――――死なない程度の強さで。 頭から溢れた血は緑一色の床に赤の補色をつけていった。 女は痛覚に耐えるような苦しい表情した。 「無謀な脱出は止めるべきだ。まあ、もともと行動に移す自由さえないんだしさ」 漂白した笑みは女の背筋を凍らせた。 ツバサはすでに骨が砕いた彼女の脚に手をおき、体重をかける。 「さあ話してー。喋ってくれないかな?くれないよねぇ?」 彼女の悲鳴にかき消されたその声にはクツクツと笑う声も混ざっていた。 女は涙をその目に浮かべていてそれはすぐに溢れ、流れていった。 「さて、まだしゃべれないか。じゃあ次はどうしようかな。水責めがいい?お金かからないしね、水責め。道具もあるから水責め以外のもできるんだけど。そういえば掃除が面倒だった。うん。水責めにしよっか」 ツバサが立ち上がった時、部屋のドアが開いた。現れたのは幼い姿をしている、黒い姿をしたリカだ。入ってきてすぐに裸体の女を目に止めたが、さほど興味がないのか、すぐに目を離した。 「この愚か者のことがわかった。所属する組織は無能力者で形成されている『地下に眠る遺跡』。命令したのはそいつのボスだ。そして――――」 ことごとく女の情報を歌うように流しているリカにだんだん彼女は青ざめていった。最後まできき終わったツバサは「ああ、あの巨大組織か」と呟くだけだった。 「この前みたいに遊ばないようにな。これも仕事で、遊びではない。」 「この前は楽しかった。特化型の治癒能力系統はいいかんじの玩具になったけど。ま、善処するよ」 「バラバラの臓物を掃除する身にもなれ」 「はいはい」 リカが部屋から出ていこうとしたところをツバサが引き留めて、ペットボトルとタオルを持ってくるように頼んだ。なにをするのか悟ったリカは頷いてドアを閉めた。 「さて、もう君がここに存在する意味はなくなったわけだ。拷問、まあ、苦しみながら死んでね。」 言った直後にツバサは肩に脚をかけて間接を破壊。続いて、わざとゆっくり腕を肩から引き抜いた。部屋にブチブチと何かが千切れたり、噴き出す音が響いた。女がだす悲鳴に聴き飽きたのか、ツバサは喉を脚で抑えた。 腕を引き抜くことには時間がかかった。ボタボタと床に落ちていく血は水滴から水溜まりのような大きさに。 血液が足りないのか、彼女はクラクラとしていて、激痛の連続に、身体の感覚は狂いはじめていた。 脚の骨は折れ、立つことは不可能、今しがた腕は引き抜かれて完全に不自由の身となった。そんな様子をツバサはただ純粋にたのしそうに眺めていた。"シナリオ"など関係のない、ツバサ本人の滲み出た感情。その感情すらも玩ぶようなその笑みは、無邪気に笑うそれとはかけはなれたものだった。 「おい、持ってき………臭い」 リカではなく、サクラがペットボトルとタオルを持ってきたが、たち込める生臭い血の臭いに顔を歪ませた。 「ああ、ありがとう」 「臭い。」 「わかったわかった」 「そんな格好で地上に上がるなよ。あとでミントつれて来る」 サクラはそれだけ吐くとすぐに出ていった。 ツバサはペットボトルとタオルを持って女のところへ歩く。女が何か動く前にツバサはそのタオルを彼女の口に詰め込んだ。何本もあるペットボトルはツバサの足元に置かれていて、彼は口にタオルを詰め込むことに専念していた。喉の奥まで入れる。彼女は目から止まることを知らない涙と、吐き気をただ感じるだけだった。ツバサはタオルを入れ終わると、すぐにペットボトルの水を口の中に流し込んだ。 そして力任せに引き抜く 女は嘔吐物と血をその口から吐き出した。 咳き込む彼女を見下ろしながらツバサはやはり笑みを浮かべた。 「『死』が見えた?」 悪魔や死神でさえも恐れるような笑みは、彼女に絶望以上の何かだけを与えた。 2012/05/28 00:08 |
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