金環日食




「とうとう、きたのね……」



ぽつりと彼女は呟いた。
空に近い高台から見上げるそれは普段眺めるそれとは違う。僕も彼女と同じく視界を空色に占めた。青いグラデーションの中に白いふわふわとした雲と目を焼かんとする眩しい太陽。
彼女の隣に彼が歩み寄り、同じように空を見上げた。



「覚悟はいいか? ……奴らが来る。足手纏いになるなよ」

「あら、誰に言ってるのかしら。私のこの力……、この時のためにつけていたのよ」

「俺のこの左腕――、封印されしこの力を解放するときがきたか」



うふふふ。ははははっ。
二人の怪しい笑い声を聞きながら日食をはじめた太陽を観察する僕は飽きれ気味に口を開いた。



「あのさ、世界の危機を前提に遊ぶのもいいけどちゃんと金環日食を観察してよ。僕だけ宿題をしてるじゃん」

「お前は感じないの? 奴らが来るのよ! いまこそ私たちの力を見せつけるときじゃない。……うふふ。右目が疼くわ」

「そうだ! 太陽が欠けたということは、我が家に代々伝わるあの――」

「はい、プリントと筆記用具。しっかりしてよ」

「ちえっ」

「ちぇー」


2012/05/21 17:15



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