▼ 争奪戦 ソラは漆たちとすれちがうとき、とんでもない質問を投げ掛けた。そんな質問をすることは隣にいるルイトも知らない。だがソラが予想外の行動をすることは多々あるため、それを咎めることなく「またか」とため息をついたのだった。 「九条沙夜を見つけるためにそんな物騒なものを持ってるの?」 これがソラの質問だった。漆と純は足を止めて驚いた顔をしたままソラを見上げた。ソラの無表情に純が怖じ気づいて漆の服を強くつかんだ。 「おいソラ」 「うるさいルイト」 「まだ用件言ってねえよ!」 「……黒色のお兄さん」 ソラがルイトの方と会話をしていれば、漆は帽子のつばをぎゅっと顔の方に下げながら口をひらく。上から漆の表情は口元しかみえない。いくらソラの異能が良眼能力でも、透視はできるわけがない。漆がどんな感情を浮かべているのか。 「九条沙夜ってだれ?」 「知らないの?」 「知らないよ」 「へえ」 漆は外見に添った咲くような笑顔を見せた。まだ幼い、子供らしい笑みは誰もがもつ母性本能を思い出させる。だが、たとえソラが男装をしている少女だとしても、暗殺や殺人を暗い裏の世界で散々とこなした犯罪者。すでに人間らしい感情が薄れている。漆の人を騙すような笑顔はたとえソラに嘘を騙せたとしても心は冷めたまま。ルイトは漆の笑顔にすこし心をあたたかくさせたが、ソラが肘で彼の腹をつついた。 (……この人……、とくにヘッドフォンの方は嘘だってわかってるみたいだな……。ってことは敵と認識してもいいかもしれない。近くに来てわかったけど、この人たちは武器を持ってるし。黒色のお兄さんはどうみても子供に容赦しないようだしな) 漆は子供らしく振る舞いながら頭の中でそんなことを考えていた。自分の服をつかんでいる純の手をとりながら奇襲をかけよう、と合図を送った。純は了承をしめす。ソラとルイトが彼らを不思議に思った。そのときだった。 漆がとつぜんルイトの体勢を崩すために足払いをした。 バランスを崩したルイトは受け身とる。その姿を見て漆は確信した。相手は戦える。つまり、一般人ではない。ルイトは腰から吊っていた筒の蓋を崩しながら開け、中から矢を取り出した。地面に片手をついたときにはルイトの矢が漆目掛けて降り下ろされた。しかしその矢は、いつのまにか離れていた純に狙撃されて矢は当たらなかった。 隣でたっていたソラはルイトに手を伸ばしながらやはり無表情で言う。 「なにやってんの?」 「転んだだけだ!」 「どんくさ」 「手、ありがとな」 「足手まといにならないでよね」 「誰に言ってるんだよ」 ルイトを引っ張った手とは逆の手に、ソラは拳銃を握っていた。 2012/05/19 20:09 |
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