争奪戦



ルベルとサブラージは私服だった。黒っぽい服装ではあるが、昼間から動くのかもしれないといつもの軽く武装されている服は着ていなかった。
パッと見では近くに住んでいる若者のように見える二人。顔つきもどこか似ているうえ、明らかにルベルより年下のサブラージは彼を「お兄さん」と時折いうため、兄妹かと疑われてしまう。サブラージの言う「オニーサン」はルベルを小バカ、冷やかしているときに使う呼び名であり、ルベルの「マセガキ」と同じ意味があった。



「宿は予約したし、あとは標的だな」

「そうだねー。あ、アイスクリーム!」

「てめぇ、さっき餅を食ったばかりだろ!」

「ええー。ケチケチしないで奢ってよー」

「この旅行費は全部俺に払わせる気かよ! 自分で買え! 金は持ってきてるだろ!?」

「ひとつくらいいいじゃん! コイン一枚なんだしさ。それにルベル、中学生にアイスクリームを買ってあげる程度のお金もないくらい金欠なの? ビンボー。ビーンボー。オニーサンってそんなに仕事がないんだね」

「一昨日やったばっかだ! ああ、アイスクリームのひとつやふたつ、ガキに買ってやろうじゃねえか!! どの味が食いたいんだよ!?」

「わーい! 確かルベルはバニラが好きだよね。だったら抹茶にしようかな」

「気遣えよマセガキ」

「うそうそ、冗談だって。おばさん、バニラと抹茶のミックスちょうだーい」



ルベルと同じ色をした緑の目が小さな店の中にむいて店員である中年の女性にアイスクリームを頼む。元気のよい明るいおばさんの返事を聞きながらルベルは財布から貨幣を取り出す。



「すみません、少し伺いたいことがあるのですがお時間よろしいですか?」



後ろから声をかけられ、金を払ったばかりのルベルは「んだよ?」と振り向いた。アイスクリームを手に受け取ったサブラージも声のした方を向く。
そこには黒髪にメッシュをいれた金色の目をした若い男女二人がいる。なにやら長い荷物を持っている。年は助手より少し上だな、と推測しながらも用件をきくことにした。
話しかけた青年はやはり丁寧な言葉遣いで落ち着いて話をした。



「この町に二十代の女性はどのくらいいますか? 髪が肩に少しかかるくらいの」

「!」

「さあな。俺たちは今日ここに来たばっかなんだよ」

「……観光ですか?」

「林檎狩りだ」

「つかぬことを伺いますが右目、どうされました? 痛々しいので心配になって……」

「お前、優しいな。これはアレだ。このまえ日曜大工して調子に乗った結果だ。気にすんな」



眼帯でおおった右目をみていた青年はこのあと失礼しました、といってお礼をのべてからルベルたちの前から去っていった。
一連を見守っていたサブラージは先端がなくなったアイスクリームを食べ続けながら言う。



「よくあんなに嘘が言えたねー、オニーサン」

「俺を馬鹿にしてんのか」

「いけしゃあしゃあと嘘を吐けるだけの頭があるなんて思わないよ。紫音もびっくり。そんなことより九条沙夜さんを狙ってるのは私たちだけじゃないみたいだね」

「アイスクリームなんか食ってねえでさっさと捜すぞ」

「ちょっとまってよー」


2012/05/11 09:13



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