争奪戦




横山陽香はどんな人でも分け隔てなく接し、初対面でも明るく振る舞える。社交的な少女だ。自己中心的で唯我独尊なところもあるが何だかんだで頼りがいのある。
さて、陽香についてはここまでにしておこう。



「あら、じゃあ九条沙夜さんは知らないのね?」

「ええそうよ。こんな田舎にそんな名前は聞いたことがないわ。その人がどうかしたの?」

「捜してるのよ。ま、ありがとねおばちゃん」

「いえいえ、お役に立てなくてごめんなさいねえ」



陽香はアスファルトで固められた灰色の地面の上で、散歩をしていたらしいここの住民の別れた後「理貴」と俺の名前を呼びながらやって来た。やって来たといっても距離は数歩だったので遠くなく、近いものだった。



「九条沙夜は知らないって」

「聞こえてた」

「ここに住んでいないみたいだし」

「だから聞こえてましたって」

「とにかく探し回るわよ、理貴」

「はいはい」



いま、陽香の斬馬刀は俺の魔武器によって手元に姿を現してしなかった。
ここは魔武器の存在を知らない人ばかりだ。魔武器を知っているのは俺たちが通う学校の周辺だけ。持ち歩いていればそれは危険人物だ。



『おい坊主。九条沙夜は注意した方がいいぜ』

(なんでだよ)

『ちょっと待ってろ。嬢ちゃんとも回線繋げてるからな』



耳から入ってくるのとは感覚がちがう音が頭の中に響き渡った。その正体は〈モルス〉。ひょんなことから魂だけだった彼が俺、花岸理貴と肉体を共有するようになったのだ。その事はすでに陽香に伝わっている。
〈モルス〉の声が聞こえたらしく、陽香は俺を見た。



『よぉーし、今から俺様のありがたい助言を聞かせてやる。まず俺たち……っつーか、坊主と嬢ちゃんを監視している人間が二人いるな。嬢ちゃんのほうは薄々視線に気が付いていたみたいだが』

「他人事だな……」

『監視してる奴は確実に敵だ。注意しろ』

「どうしてそんなことが分かるのよ」

『俺様だからだ。続けるぞ。それに敵は二人だけじゃねえ。他に6人いるが、そのうち二人は話せば味方になるかもしれねえな』

「味方は増えるべきね」

『まあ、坊主と嬢ちゃんの知り合いだから俺はそう思うが実際はわからねえ。……おっと、続きは後だな』



〈モルス〉はそれだけ言うと、話を止めて静まってしまった。どうしたのだろうと俺はとりあえず周囲を見渡すことにした。すると隣から「バカ理貴!!」と陽香の怒鳴る声と共にひっばられた。転びそうなところを受け身をとってなんとかそれを回避したとき、ザクリと背後で鈍い音がした。



「よお少年少女。面白いことしてるなぁ。聞こえたぞ。九条沙夜って単語。詳しく聞かせてもらおうか」



背後には大鎌が太陽の光を反射させて突き刺さり、それを投げたであろう黒髪に銀のメッシュを入れた女がくちもとを歪めながら笑っていた。その隣には女と瓜二つの男が静かに立っている。



『敵のお出ましだ』



〈モルス〉の楽しそうな声が無償に響いた。


2012/04/21 14:01



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