▼ ソラに本気で襲われたいシャトナ 本日の仕事はオレとシャトナがコンビを組んでいた。シャトナはよくオレにべたべたとくっついてくるものの、彼女はレオとコンビを組む。反してオレは単独か、もしくはナイトと組むことが多い。故に、シャトナと組むのは珍しかった。 作戦はこうだった。色仕掛けにシャトナが潜入し、標的の傍にいながら情報をオレに伝達。オレが標的を殺す、という簡単な仕事。ただセキュリティがあまりにも頑丈であるため、侵入口と脱出口を確保するのが難しい程度の仕事だ。ぶっちゃけ、オレがいなくてもシャトナ単独で任務に臨めただろうが念には念を、というやつだろう。 仕事は数分前に達成。あとは無事に帰ることができれば任務完了。依頼者の望むままに標的は斬殺した。死体はシャトナと寝ていたベッドの下に転がっている。 ――ここまでは順調だったのだ。 きっと、すべてはシャトナが、シャトナであることを忘れていたオレのミスだ。 「ねえ」 などと艶かしい声でオレに語りかけてくるのは裸のシャトナだ。暗殺業につく前までは体を売って生活していたこの女は、すっかり快楽の海に漬かっている。一度スイッチが入れば満足するまで相手を逃がさない。オレは呆れた。シャトナが次の言葉を言う前に、いつも通り適当にあしらっておく。 「足りないなら帰ってからレオに相手してもらいなよ」 「今じゃないと……、満たされないわ」 「だったら自慰でもしてれば。間違ってもオレを誘うことだけは止めてよね」 「嫌ね、ソラ。もう誘ってるわ」 「淫乱女」 ……足元を見るまでもない。 彼女の異能は影を自在に操ること。時には槍となり、斧となり、剣となり、盾となり、そして拘束になる。 「だいたい、オレはこんな格好してるけど男じゃない。知ってるでしょ」 足から腰まで絡み付いたシャトナの影を忌々しく眺める。 ああ、やばい。いつものおふざけとは違う。こいつは本気でオレと寝ようとしている。抜刀の姿勢をするとシャトナはくすりと笑った。くそ、楽しんでやがる。 「ソラとセックスしたいわ」 なんて、直球で言ってくる。めんどくさい女だ。相手を考えないところがとくに。 いままでシャトナの餌食ならいくらでも見てきた。シャトナは男を見ればまず誘う仕草をみせる。男であれば、誰でも、だ。見事シャトナの罠に引っ掛かり、毒を飲まされた奴らはみんなシャトナのために身を粉にして消えていった。シャトナの与える毒の味を知れば、それに中毒となる。まるで麻薬のような代物だ。 非常にめんどくさいのは、シャトナの相手は男に限らないところだ。 「性別なんて関係ないのよ。一緒に楽しめればいいの」 「ふざけんな娼婦」 シャトナだけではなく、その乱れ具合はレオも同一だ。 性別など関係ない。快楽さえあればそれでいい。なんでもいいからセックスしよう。そんな馬鹿みたいに単細胞に出来ているのだ。 シャトナの餌食は何人も見てきた。老若男女みな廃人になって蒸発した。無事なのはレオくらいのもの。ウノ様でさえ「シャトナかレオもしくは最悪両方が誘ってきたら、まず逃げなさい」なんて忠告をくれる。 「勝手に自慰でもしてろ」 「冷たい。ソラが間近で見ていてくれるなら、やるわ」 「きもい」 「まあ酷い。でもソラ、勘違いしないで」 「はあ?」 シャトナの影はするりするりとオレの体を這ってのぼりつめる。影に縛られて身動きがきかないオレはされるがままだ。吐き気がするほど甘い香りに気分を害する。 つ、と影がオレの手を撫でた。それに重なるようにシャトナの手が伸びる。 「私はあなたを犯したいんじゃないの」 「じゃあなに」 「ただ犯されたいのよ」 耳元で囁かれる甘言。真っ赤な舌が耳をなめた。とっさに殴り飛ばしてやろうかと思ったが、体は拘束されたまま。 ベッドから這い出てきたシャトナは毒蛇のようにオレに絡み付いてくる。指の細長い手はオレの頬を撫で、触れるか触れないかの曖昧な感度を保ちながら唇を優しく撫でる。ぞぞぞ、と背筋を寒気が走った。 熱のこもった吐息を首筋にかけられ、時折甘美な含み笑いをされる。 同性でさえ手込めにする理由がわかった。シャトナはサキュバスだったのかもしれない。 ああ、まずい。まずい。まずいぞ。 シャトナのペースに乗せられている。どうにか脱却しなければいけない。考えろ。考えるんだ。でも、仕方ないじゃないか。何をしようにも体が動かないんだから……。 「……シャトナ」 名を呼べば、彼女は蕩けそうな瞳をオレにぶつけた。直視するだけで脳が痺れる。体の心が熱い。ただシャトナと喋っているだけなのに、どうしてこうも欲を刺激されなければならないのか。 なんて軟らかそうな唇。なんて甘そうな舌。白い肌は柔らかそうで。艶やかな黒髪には口を寄せたい。 脳裏に赤信号が見える。なにか一つでも行動をすれば歯止めが聞かなくなる。いまなら間に合う。堪えろ。しかし理性の訴えなど些細な妨害。 「触れて」 オレの胸板に顔を埋めて、シャトナはもたれ掛かる。その彼女の背中に腕を伸ばして抱いてやれば、安心しきった息を吐く。彼女の背中に伸ばしたオレの腕は徐々に下がり、上着の下へ手を差し込んだ。 「大丈夫よ、ソラ。私はこのままのあなたが好き。溺れないように手を握っているから、私を好きなようにして」 鎖骨にシャトナが吸い付く。呪いの刻印を隠すための包帯を外して、シャトナの愛情表現は止まない。比例してオレは彼女の下着を服のなかで外した。溢れる乳房を手で包む。手のひらだけでは収まりきらないほどのそれに直接唇で触れたくて。シャトナをベッドに埋めると口で服をたくしあげる。オレの髪止めをほどき、荒い息のなか上着を丁寧に脱がされる。 死体の隣であることを忘れ、オレはシャトナの放たれたままの手に己の手を重ねた。しがみつくようにシャトナは強くオレの手を握る。 互いに愛しているわけではない。欲を満たすだけの行為。理性などとうに蒸発した。 ああ。きっと、今夜は長いんだろうな……。 2015/05/10 19:47 |
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