▼ 混沌の魔法少女 「さっ、左都ぉ〜!」 「サブラージぃ〜!」 「……えー、というわけで、仲間を見つけた」 ルベルのわきで抱き合うのはサブラージと、見知らぬ女子中学生。茶髪を桃色に薄くした長髪の少女だ。その少女のさらに隣には左側だけの黒い横髪を長くした着物姿の少年が苦笑を浮かべて立っていた。 「こっちの中学生が左都って名前で……、あー、こっちの着物が、あー、んー。どう説明したらいいんだよ」 ルベルが見知った新しい人物をうまく紹介できず、目を泳がせて適当な言葉をさがした。初と雪之丞が同時にこてんと首を傾げる。 「そのままでいいよ。ルベル。はじめまして。僕のことは助手と呼んでください。事情はサブラージから聞いてます。左都共々よろしくお願いします」 深々と礼儀正しく助手は挨拶した。サブラージと抱き合っていた左都も少し照れながら助手にならって挨拶をする。 「助手? 名前が助手なの?」 「わけあって僕は名前を捨てたんだ。代わりの名前があるわけじゃないし代名詞で呼んでくれればいいよ」 「代名詞って、なに? なにかの助手……なんだよね?」 「情報屋のね」 玉乃は助手をまじまじと見つめた。目の前にいるのが奪還屋、回収屋、情報屋の助手だと思うと、やはり――というか今さら――別の世界の人物であると実感される。 「へえ、情報屋か」 ソラは腕を組んでまじまじと助手を見る。左都はソラの持つ得物に驚いて一歩下がる。コートで見にくくなっているものの、ガンホルスターは隠しきれているわけではない。 「そっちの女の子は情報屋だとかいう物騒な世界の子? オレはそう見えないけど」 「あなた、暗殺組織の人じゃない」と、ソラの客観的な「物騒な世界」にマレは文句を溢した。それを聞いた左都は顔をひきつらせる。 「いや、私は一般人……だけど」 「ああ、やっぱり。ごめんね、オレこんなの持ってて。素敵な君に撃ったりしないから」 「あはは、急に撃ったりしたらびっくりだけどね」 「そうそう。ところで君は――」 「こらソラ。やめなさい」 ソラのナンパじみた会話に終止符をうったのはマレだ。ソラの腕をちょいちょいと引っ張って怪訝な顔をする。ソラも邪魔をするなよ、とマレと同じ表情をしていた。 「情報屋ならこの世界について面白い情報とかないの?」 「情報屋だから代金を貰うけど、いいかな?」 玉乃は口車では助手に敵わないなと顔をしかめた。世界が違えば貨幣も当然別物。助手が情報屋としての仕事を忠実に守るのならば、代金を払わねば情報を渡してくれないだろう。助手を知るものは「相変わらず守銭奴なやつ」と胸の内で呟いた。 「……なんでもいいけどさ。さっさと始めない? お嬢さんたち」 ソラは拳銃を片手に顎で外をさした。 初は顔を引き締め、サブラージは知り合いが増えた手前嫌悪を隠さず、玉乃は唾を飲み込んだ。 昨日も戦った、瓦礫に囲まれた小さな広場。そこに初たちが出会った全員が集まっていた。三人の魔法少女、魔法少年はすでに変身済み。サブラージは沸騰してしまいそうなほど顔を真っ赤に染めていた。 「わははっ。サブラージ、かわいいー!」という左都の声援にさらに身を縮こまらせている。 ――その様子を、「外野」は見ていた。 「おい」 「なあに、ダンくん」 「いつまでコソコソしてるつもりだ」 「あっちの仲間になりたいの? まぁー、あっちのが賑やかだしねえ。楽しそうだし? ダンの知り合いもいるし? 寂しいなら行ってきてもいいよ」 「うるせえ。そうじゃない。ふざけているように見えるが、魔法少女と魔法少年は現状打破に使える。俺たちも貢献した方がこの夢から覚める近道だろうが」 「つまり、あっちに行きたいんでしょ? だから行ってもいいって」 「あっちに行きたいわけじゃ……」 「あっ、じゃあ俺たちのことが大好きで放っておけないってこと? あははは、照ーれーるー」 「殺してえ……」 智雅に遊ばれるダンは眉間のシワを一層深くした。その様子を聞いている葵も智雅に遊ばれることは多々あるが、今回の被害者はダンのようだ。なんまんだー、なんまんだー。 「でも智雅くん。わたしもダンと同じ意見だよ。あそこは定員三人。確実に退けてもらうには力を得てもらうしかないと思うけど」 「俺たちの力を得なくても大丈夫だよ、葵ちゃん」 智雅とダンが腰を下ろしている木を見上げ、山田の隣で葵は眉を下げた。この世界の仕組みを知った彼らは傍観をしていたのだが、仕組みを知ってしまった故の意見だった。 「そんなことない。だって不老不死と神様と錬金術師の力だよ。強力なのは決まってる」 「自分でいうのもなんだけど、だからこそ余計にあっちに協力しない方がいい。俺たちが強すぎるんだよ」 「扱いきれないってこと?」 「そうだね。俺らはかなり特殊だし、異例だし」 「……魔法少女と魔法少年が暴走……、それどころか崩壊しかねない」 「そゆこと!」 「……どうでもいいな」 山田は切り捨てる。言葉通りの態度をとり、何本目かわからない煙草を持ち出して火を点けた。 「要は暇なんだろ」 山田の言葉を否定するものはいない。山のように動くつもりのない山田の素振りは自然と伝染し、四人はだらりとその日を過ごすことにした。 2015/01/13 09:31 |
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