混沌の魔法少女

     

新しく現れたのはソラとマレだった。
落ち着いたところで彼らの紹介を受けたサブラージは苦笑いをしながら「この人たちも異能者?」と聞いた。もちろんナナリーが「そうだよ」と頷く。
金神の隣で大人しくおすわりするロルフと二匹の狼はしょんぼりと項垂れている。


「魔法少女……か。はあ」

「魔法少女ね……」


事情を聞いたソラとマレは引いていた。あぐらをかいて座るソラは横に首を振り、マレはこめかみを指で抑えている。正直、その心境はサブラージも同じであった。隣に座る巨体のルベルに隠れるように身を小さくしている。
しかしサブラージとはうってかわって初は楽しそうだった。初に釣られて雪之丞も笑顔である。
玉乃は引き釣った口元で乾いた声をして笑う。


「魔法少女ってあれでしょ? 世界を救ったりする……」


ソラはマレに話し掛けた。マレは頷いて「それはアニメの話でしょう」と修正をかけた。ふたりとも、顔が引き釣っていた。


「ナナリーの趣味ですよ。彼女らも好きであんな、現実ではありえないコスチュームを着ているわけではないのです。そう。好きで露出の多い服を着て、真面目に、非常識なくらい暴れているわけでは」

「うわああああっ、サレンーッ!!」


ルベルに隠れていたサブラージが勢い良く飛び出した。サレンに飛びかかろうとして、ルベルがサブラージの首根っこを掴んで阻止。サブラージは子猫のように手足を暴れさせたあと、ルベルに回収されていった。金神が面白可笑しげに笑っている。
サレンに飛びかかろうとしたサブラージに警戒していたソラは浮かせた腰をおろした。


「サレン、ほどほどにね」

「事の発端はすべて貴女ですけどねぇ。ナナリー?」


ナナリーの苦笑とサレンの張り付けた胡散臭い笑顔が交差する。


「あっ。で、俺たちの事情は分かった?」


雪之丞が気をきかせた。ソラとマレは頷く。共通点のない人がランダムに異世界へ呼ばれたこの事実について。ナナリーの仕業で魔法少女やら魔法少年に仕立て上げられた初、サブラージ、玉乃の三人について。そして魔法少女、魔法少年の目的を。


「嫌なことはさっさと済まそう。殺す気で行くから。先制は譲ってあげ――」

「待った待った! ソラ、待った!」


拳銃を構えるソラの正面にナナリーが立ちはだかった。ソラの表情が怪訝になる。


「なに」

「この子達はもう疲れてるの。休ませてあげよう?」

「殺し合いに休みなんてない」

「これ、殺し合いじゃないから!」

「……」


無表情のソラから落胆のため息。ナナリーの制止を大人しく聞き入れ、マレの隣にもう一度座り直した。その様子を遠慮なくじっと見ていたリャクは「ではまた明日な」と一言だけ残し、ナナリーとサレンを引き連れてどこかへ行ってしまった。
拍子抜けするほど言葉数の少ない挨拶に、ルベルとサブラージは同じ顔でポカンと眺めていた。


「ソラたちと戦うのは明日で、今日のところは解散ってところかな。あーあ。疲れた」


玉乃がうん、と両腕を空へ向けて背筋を伸ばす。雪之丞が立ち、初に手を貸す。初も立ち上がると、彼女はそさくさとロルフのところへ行って、狼を犬のように愛でていた。金神はロルフを犬のように扱い、ロルフは拗ねる。ソラは拳銃の調子を見、マレはその様子を眺める。
ルベルとサブラージもリラックスしはじた。


「はぁ、本当に疲れた」

「さっさと家に帰りてぇぜ」

「同意。あ、どこで寝る? ……待って。今の無し。ルベルと一緒に寝るとかあり得ないから」

「あぁ?」

「うわ。ほら、加齢臭」

「まだしねーよ!」


ルベルとサブラージの話を一部聞いて、各地で寝床についての話が上がった。ソラとマレはすでに寝床を確保したと言ったが、他の者たちは寝床の確保などしていない。


「初。寒いでしょ? こっちおいで。暖めてあげるよ。
ありがとう、雪之丞。助かります。わあ、雪之丞の手、あったかい……。
さっき居た丘で寝よっか。葉っぱで布団作ってさ。星を見ながら。気温も低くないし。
いいですね。まるで夢みたいに幻想的です」


雪之丞と初が手を暖め合いながら、ふふふ、と笑い合う。まるで親子のような、兄妹のような暖かさのある会話の最中もルベルとサブラージが睨み合っていたのを玉乃は見過ごさなかった。


「俺、あの廃墟で寝るから。まあ、廃墟は慣れてるし」

「はあ? あれ、私が最初に目を着けてたんだけど」

「ンだと? 俺が先に決まってンだろうが」

「なによそれ。証拠でもあんの? あそこは私が寝るの。ルベルはそこら辺で転がってたら?」

「ふざけんなクソガキ! テメェこそ証拠でもあんのか?」


ギャアギャアと騒ぎ出すルベルとサブラージの間に玉乃が押し入り、喧嘩騒動の仲裁をする。ルベルとサブラージが指す廃墟はまったく同一で、偶然の一致か必然か、玉乃は呆れた顔を隠すことはしなかった。


「じゃあ皆で仲良く寝たら? そこの赤髪さんと一緒にるのが嫌なら捲き込んじゃえばいいんじゃない? 二人きりじゃなくなるし、大勢の方が暖かいし」


何気ないソラの一言。ソラは無関心です、と調子を見ていた拳銃をガンホルスターにしまった。





「どうしてこうなった」

「ソラの、せい」


廃墟の中、男女混合に一部屋に集められ、雑魚寝。
リャク、ナナリー、サレンの三人を除いた全員が集められていた。汚い部屋を掃除ができるまでに掃除し、何処からか毛布を拾い、九人はそれぞれ文句と感想を言いながら集まる。


「ルベル、マレさん襲っちゃダメだからね」

「俺をなんだと思ってんだ」

「獣。狼」

「ブッ飛ばすぞ」


「マレなら殺さない程度に襲ってもいいんじゃない?」と、ルベルとサブラージの話を聞いていたソラがあっさりと同行者を差し出してマレに怒られる。
ぬくぬく、とロルフの狼二匹と初は暖めあい、雪之丞はその様子を悲しげな表情で見ていた。


「寂しい? 初、俺の友達に、取られて」

「そんなことないけど……。俺にしかなついていなかった初が、狼と仲良くしてるなんてき、気にしてないし。ああ、寒いなあ」

「それ、寂しいって言う」

「だっ、ばっ……。う、初の友達が増えて俺も嬉しいから!」

「俺も友達が取られて、寂しい、から」

「俺は寂しくない! 一緒にしないでよロルフ!」

「……ごめん」

「えっ。あの、俺も本気で怒ったわけじゃないから、落ち込まないで」

「Danke」

「だ、だんけ?」


ロルフと雪之丞のことなど露知らず。もふもふ、と初は幸せそうに狼に埋まっていた。

人狼であるロルフにとって、夜は鬼門。殆どの人が寝静まった深夜、こっそりと二匹の狼と共に廃墟から脱け出した。廃墟の屋上で警備をしているソラと、廃墟内で巡回をしているルベルはそのことに気が付いたが、ロルフが人狼だということは知っているため、ただ見送るだけだった。

人狼の本能で誰も殺さないようにと、肉のない場所へ避難をする。逃げた先は、廃墟の荒野から更に奥。はしっこの山だった。廃墟の荒野を囲うようにしてそびえている山は、月の光から逃れることができ、しかも肉がない。朝になったら廃墟へ戻ろう、とロルフは狼たちと共に眠った。

一方、巡回をしていたルベルはあんぐりと開けてしまいそうな口を閉ざし、疑い深く目の前の現実と向き合った。


「あ、ルベルもこんな変なとこに居たんだ」

「こんばんはー」


ルベルへ親しげに話し掛ける二人。


「……なんでお前らもここにいるんだよ。助手。それに、う、左都」


目の前には、ルベル、サブラージと同じ防御壁都市に住まう助手と左都が待っていましたと言わんばかりにのんびりと居座っていた。

     

2014/12/09 09:57



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