優しさは羽のように

塾の授業が終わり、教室には僅かに生徒達が残っている。その中でも京都出身の3人は楽しそうに会話をしていた。


「……んで逃げられてしもたんですよー」

「ほんっと阿呆やな」

「はははっ。…あ、もうこないな時間や!坊、志摩さん帰りましょ!」


子猫丸の呼びかけにのそのそと帰りの準備をしながら答える。外はすっかり夕日でだいだい色に染まってしまっている。先に歩き出した勝呂に残された2人は、待ってくださいよーと小走りで追いかけた。

教室を出る直前、静かになった空間に小さな寝息が聞こえ、志摩はそっちを振り返った。目線の先には後列の机に突っ伏している燐。さすがに置いていくのは不味いかと思いながらもその場で右往左往する。


「おい志摩ーっ!何してんのやーっ!」

「早く来てくださーい!」

「……っ、すんまへん坊、子猫さん!先帰ってください!」 


そんな志摩に疑問も抱かず勝呂は2つ返事で再び歩き始めた。いいのかどうか、子猫丸も困った顔をするも仕方なくついていきとうとう姿は見えなくなった。志摩は小さく息をはくと、燐を起こさないようにゆっくり扉を閉めた。


相変わらず無防備に寝る燐に志摩は悪戯心がわいた。
ほんま、奥村くんはかいらしなぁー。いきなり脅かしたらどないな反応しはるんかなぁ…。


「おーくーむーらー……くんっ!!」

「とぉうあっ!?」


大きな声で呼ばれたと思ったら、いきなり背中にずしりと重みをかんじた。


「わわっ志摩!?何すんだいきなり!」

「堪忍な!あまりに奥村君がかいらしかってんから…」 


するりと燐から腕をほどいた時、少しだけ物足りないような気分になったが、何を考えてんのや…と振り切るように頭をフルフルと振った。志摩の言葉に納得がいかないような表情をしていた燐が唐突に言葉を投げてきた。


「志摩…ありがと、な」

「ぇ……、ああ!何がっ!?」

「起こしに来てくれて、ありがとな」

「っっ!!」


自分でも訳がわからないくらい動揺してしまった。仕舞いには体中の熱が顔を覆ったように熱くなった。


ヤバい…なんやっ、おかしいやろ…こんなん……。めっちゃドキドキしてはる…。お、奥村君にお礼言われただけやのに…っ!

胸のおかしいくらいの高鳴りを押さえつけようとするも、燐の顔を見るたびに速まるばかりだ。

俺は乙女かっ!?ほんま意味わからんよっ!!


さっきから赤くなってたじたじになってる志摩を見てると、なんだかよくわからないが自分までそわそわしてきてしまった。


「あー…志摩?大丈夫か?どうしたんだよ…?」

「奥村君にお礼言われるような事…俺は、してへんよ」

「えっ?…なぁに言ってんだよ、みんなそのまま放置してるだろ?わざわざ起こしてくれるなんて、志摩は優しい!」


あっ、と今までで見たことない笑顔にこの胸の高鳴りの正体をばらされたような気分になった。


そっか…、俺、奥村君が……好き、なんや。


「1番優しいのは、奥村君やろ」

「へっ!?」




優しさは羽のように
(いつか俺のもんにしたるから、覚悟しぃや)


(もう一回抱き締めて欲しいなんて、バカじゃねぇのっ、俺!!)






―――――――――――――――
恋に落ちる志摩。

燐の方が先に好きになってた感じかな?


since.6.11.



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