好きがなくなるわけがない

「楽しいー中間ーがーぼぼぼー…ン゛ッ!!」


駅のホーム。志摩が暇そうにしながらボケ始めた。志摩のストッパーでもある勝呂が頭にチョップをクリーンヒットさせるとゆらゆら揺れていた体が一気に前へよろめく。頭を抑えぎこちない動きで勝呂に目で訴えたが無視。電車が向かってくるアナウンスが鳴ったので志摩は諦めたように体を起こした。


「い、いやぁしかし…子猫さんが来れへんからって2人だけで行ってよかったんですかねぇ…」

「なんや?問題でもあるんか?」

「エッ、いや…ないですぅ……」


情けなく返事をするといつの間にか電車の扉が開きはじめていたので志摩は勝呂に続いて慌てて電車に飛び乗り早朝でがら空きの席に隣りあって座った。

2人の目的地は海。本当はいつものメンバーで行くつもりだったが子猫丸が家系の用で急遽来れなくなってしまった。じゃあ日にちを変えようと提案したが子猫丸が自分抜きで楽しんできてほしいと言って引かなかったので言葉に甘え出掛けている。


「志摩、なんか緊張しとらへんか?」

「へっ!?な、なんでわかるんや…流石は坊……」

「お前がこないな調子やと俺も調子狂うわ…。笑え」

「んなぁっ、坊それ無茶振り言うやつやー!」


動き出した電車に体を揺られながら志摩は困ったように驚く動作をする。勝呂はもどかしそうに頭を掻くと説得力のない赤みがかった頬で志摩に言い放つ。


「そりゃあ子猫丸には悪いけどなあ…仮にも2人…やし、もっとお前と楽しみたいんや」

「坊……」


聞いていた志摩の方もより恥ずかしくなり泣きそうな少女のように赤面してしまう。赤くなるなり志摩は自分の声で恥ずかしさを遮る。ちらりと勝呂の方を向くとばっちり目が合いやけくそでニコッと笑った。余計に顔が熱い。だが勝呂にはそれだけで十分効いたようだ。


「それで、…いい」


一言だけ呟いて目を瞑り下を向く勝呂を見た志摩はもう何がなんだかわからないくらい混乱した様子で勝呂の肩に思いっきり頭から寄りかかってやった。反動で勝呂は目を開け志摩をまじまじと見る。


「何すんのやっ!?」

「馬鹿……放っといてや」

「はぁ…何が馬鹿や……」


しばらくこのままでいるうちに志摩は睡魔から逃れることも出来ず眠りに落ちてしまった。耳元で聞こえる寝息に気づいた勝呂は眠気が移ったように志摩の頭に自らの頭をもたれ掛からせ目を閉じた。




志摩の耳に聞こえてきたのは海の音と紙をめくる音。人気がなく静かだ。意識がまともになると自分はレジャーシートの上に横になっているのに気づいて起き上がった。


「お前よう寝とったな」

「坊…なんでもう海にいるんです?」

「起きひんから運んできた」

「嘘やろ…すごい迷惑かけてしもた……」


勝呂は読んでいた本を閉じ立ち上がると落ち込む志摩の腕と荷物を掴んで歩き出す。志摩はわっと、咄嗟のことに驚きながらも足を懸命に動かした。


「泳ぐやろ…水着着替えるで」

「いっきなりですねぇ!?」


更衣所に着き、着替え終わった2人はとりあえずレジャーシートのあった所へ戻ろうとした。だが突然志摩が叫び出すものだから勝呂は顔をしかめる。


「ギャアァァァ!!ふっ、フフフフナムシやァッ!!」

「ちったぁ落ち着けんのかお前は…」

「やって、やって、もうこれGやん!フォルム完璧Gやん!」

「チッ、走るぞ志摩……」


勝呂が言うなり志摩は猛スピードで駆けて行く。勝呂はすっかり置いていかれてしまった。レジャーシートに着くと志摩が四つん這いで真っ青な顔。大丈夫かと呆れ混じりに問うとふるふると頭を横に振る。


「ぎょーさん…おったぁ……」

「本当に情けない奴やな」

「余計なお世話やぁ…」


四つん這いから体勢を変え座り込んだ志摩の頭を撫でてやると少し頬を染め意思としての強さは感じないが言葉で反抗してきた。


「まるで子供みたいやん…止めてくださいよぉ……」

「止めてええんか?」

「………もうっ、ほんまに堪忍してください坊…」

「んー…」


一瞬志摩を撫でていた手で首筋をイタズラ半分でなぞって離すと、その部分を覆いながら真っ青だった顔を沸騰させたような顔で志摩は勝呂の方を見た。心拍数共に急上昇。


「なっ、なっ、…坊がっ、こんなっ!?」

「まあ俺かて男やし…お前にしてみたいこと山程あるんやで?…なんてな」

「ッッ!?…へへへ変態っ!坊の変態!俺に何する気ですっ!?」

「ただの冗談やろっ!?」


過剰な反応ぶりを見せる志摩は自分の体に両腕をまわして体をそむける。勝呂はここで追い討ちをかけるのも面白そうだと思い志摩に近づいていった。



「そないに反応するっちゅうことは…ほんまは期待したりしてるんとちゃう?」



本来なら強気に反応する志摩が目の前で無反応で硬直している。勝呂はなにやら体の奥底から何かが疼く感覚を覚えた。本能なのか無意識でいつの間にか勝呂は志摩にすっかり覆い被さっているのに気づく。


「ぼ…ん……?…ひっ!?」


勝呂は気づかないうちに志摩の首元に顔を寄せキスを落としていた。ハッと我に返った勝呂はこのままいくと本当に自我を忘れ大変なことをしかねないと思ったので志摩から飛び退くように離れた。沈黙が続いて罰が悪そうな表情で勝呂は志摩に頭を下げた。


「その…堪忍。許してくれ。調子乗りすぎとった。……何がなんだかわからんくなって…」

「…………いや、はい……別に怒ったり…せぇへんし…。だっ、だから俺なんかに頭下げんといて……」

「悪いことしたと思っとる。これじゃあ嫌われても仕方ないやろな…」

「それは違うて!」


謝罪を口にする勝呂の言葉を遮って志摩は叫んだ。そのまま自分の言葉を紡ぐようにしてぽつぽつと喋り出す。


「そりゃあびっくりは…でも、それだけで坊を嫌いになったりしぃひんよ。多分ずっと坊のこと…と……えと」

「そこ言わんのかい!?」

「やって恥ずかしいやんっ!?」

「ククッ…、ありがとお。好きやで」

「ああっずるいですわ坊!折角いいこと言ってたんに…」









好きがなくなるわけがない
(で…いつ泳ぐん?)

(…昼飯食うてから)







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海「解せぬ」

この子達の本番を書きたくてしょうがない。



since.7.31.




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