輝くときをいつまでも

節句、僕達はこの国に生まれ今の今まで忘れることなく確実に関連する風習を行ってきた。そんな節句の中でも、明日はロマンチックなストーリーが有名な七夕の日だ。何でも、七夕の風習は、『「夜明けの晩」(7月7日午前1時頃)に行うことが常』だそうだ。正直僕もそこまで完璧にこなしたことはない。そもそも最近知ったばかりだし、そんな遅い時間にする風習と言われても思い浮かばないし眠くなってしまうに決まっている。


だがしかし、だ。雪男は15歳になった。大人的思考を振り払ってしまえば今までとは違うことがしたくなるというもの。たまにはこんな僕でも思いきりが必要なんじゃないかと思っていたりもする。

雪男は考えに考えた末、全ての責任を自身で負うことを前提に、あわよくば兄である燐も連れ外に出ることにした。早速夕飯の支度をしている燐の傍へ行って提案を聞いてもらう。


「ねえ兄さん、今日…というか明日かな…夜中ちょっと出かけない?」

「ハ?……何でだ?危ねえじゃん」


意外にも普通の反応をしてきた珍しい瞬間。といっても、雪男には燐が危ないか危なくないかの判断がそこそこちゃんととれることは知っていたので然程驚いてはないのだが。当然連れ出すには理由が必要だろうと思ったので安全については自分が保証すること、何故そんな夜中に出かけようとしているのか、それらをちゃんと燐に説明してやる。筋の通った理由に今度は駄目とは言えなくなった。


「…わかった、いいぜ!お前が頑張んなくても俺が守ってやるしな!」

「本当かい?ありがとう兄さん」


雪男は純粋に嬉しくなってしまい思わず頬を緩めた。燐はそんな雪男を見て尚ゆるゆるの顔になりながら味噌汁の鍋をお玉でサッと一周混ぜ、雪男の頭を強引に撫でる。よし、飯にすっかと言いながら撫でていた手で雪男の頭をポンッと一回叩いてやった。



午後12時頃、夕飯を食べて少し寝た後2人は寮から川がある場所まで出来るだけ歩く時間を減らすため、川に一番近いと思われる扉へ学園内を行き来できる鍵を使って出ていった。歩く時間は少し長いが2人は嫌な顔1つせずに進んでいく。

七夕の醍醐味の1つである天の川。燐はふと上を眺めるが残念ながら見えなかった。


「見てえよな…天の川」

「見れるかもよ?空気の綺麗な所へ行くんだから」

「マジッ!?綺麗なんだろーなあー…」

「そうだね」


期待感溢れた表情の燐を盗み見る。尻尾が隠れていなかったらさぞ嬉しそうに振られるんだろうなと想像したら思わず笑ってしまった。良かった、兄さんには気づかれてない。


「兄さん、今日は竹の子の日でもあるんだってさ」

「なんだそりゃ、聞いたことねえぞ?」

「竹取物語のかぐや姫が「竹から生まれた」日が七夕ではないか、という事で「竹の日」…つまりは「竹の子(=筍)の日」という事になったんだって」

「へー…竹取物語っつーのはよくわかんねえけど、今日はかぐや姫の誕生日なんだな!」

「…まあそうなるのかな……」


正確に言えば誕生日と言うわけではないのだがそういうことにしといてもいいだろうと思いそっとしといた。


そうこうして歩いてきたこと小時間、流れる小さな川と沢山生えている笹、時折光る蛍が雪男達の目を瞬時に奪う。感嘆の声を上げてゆっくり歩んでみる。上を眺めると確認は難しいものの、天の川と思わしきものが見えた。


「すっげえ…こんなの見たことねえよ……」

「綺麗だね…蛍まで見れるし来て良かったんじゃない?」

「おう!」


雪男が携帯で現在時刻を確認するともうすぐで1時になるところだったので、こっそり作って持ってきた短冊とペンを取り出し燐に1セット渡した。


「笹も丁度あることだし、折角だから書こうよ」

「用意しゅんとうってやつか?」

「用意周到でしょ…」

「……そうとも言う!」


本格的に兄の頭が心配になってきた雪男は短冊に『兄さんの頭がよくなりますように』と書こうとしたが流石に止めた。2人はそれほど考える時間を必要とせずに願いを書き終える。

燐の願い事は何かと雪男が覗き込もうとしたら隠されてしまった。


「何で隠すの?」

「願い事は見られたら叶わねえんだぞっ!」

「確かに、兄さんの言う通りだね」


ちょっと慌てている所をみるとその願い事には期待していいのかな、と雪男は心の中で思った。2人がそれぞれ笹に短冊を吊るすと時刻は1時を回った。燐に呼ばれ地面に腰かける。雪男は手を握られたのでギュッと握り返した。


「織姫と彦星、会えるといいな」

「うん、会えるよきっと」


七夕という節句の風習。何年前から始まって行われてきたか雪男達は知らないが、ずっと続くといいと2人は思った。

長い間こうしていると、ふと燐は肩に重みを感じた。雪男だ。規則正しい寝息も聞こえる。

「…こんな所で寝ると風邪ひくぞバカ……」

雪男の携帯のディスプレイを見ると2時前を回っていた。時間も時間であるので眠くなるのも仕方がない。それに雪男は祓魔師の仕事で疲れがたまっているはずだ。しょうがない弟だと言うと、起こさないように雪男をおぶってもと来た道を戻って行く。

長い帰り道、燐はそこまで疲れる様子もなくズンズンと歩いていく。今日は特別に七夕を元にしたお菓子でも作ってやろうと思った。ゼリーがいいだろうか、色々なアイデアが浮かぶ。それにしても雪男の提案とはいえこの時間に出歩くのは果たしてよかったのかと今頃思う。だがこんなに本格的にやったのだから願い事が叶いそうだと嬉しくなってしまう自分がいた。


2人の短冊に込めた願い事、それは『いつまでも兄さんと(雪男と)いられますように』。この願いは小さくても2人にとって一番大切なことだ。いつ失われてもおかしくない日常。それを失うことはとても辛くて怖いものだ。




輝くときをいつまでも
(願い事、叶いますように)







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こうして考えると風習っていいものだと思いません?



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