コイ影
◎夏と君との続きです。
晴天。直に日に当たっているからか、肌が汗でベタついてきた。燐は勝呂と外に出てきた瞬間から体温調節をするために舌を出した犬の様に間抜けた顔をしている。あちぃあちぃと呟きながら歩いているものだから、勝呂も段々と我慢が効かなくなってきて少し前を歩く燐の襟を掴んで後ろに引き戻した。グエッと声をもらす燐にショルダーバッグに入れていたものを差し出す。
「そないに暑いんやったら冷えピタでも貼っとけ!後、これで汗拭いたらええ」
今人気の汗を拭き取るタイプの物だ。それに男性用とちゃんと考えてある。
「ぬぁー…すげぇな勝呂、雪男を上回る面倒見だぜ?」
ありがとなと言いながら受け取り、汗をもそもそと拭き始めた。一通り気になる箇所を拭き取り終わると丁度通りにあったゴミ箱に投げ捨てる。
「…投げんなや」
「いいだろこんくれー」
お次は片手に持っていた冷えピタを剥がし、貼らない方をまたしてもゴミ箱に投げ捨てるも呆気なく落ちてしまう。もう一度拾い直してしぶしぶゴミ箱まで捨てに行った。勝呂の方へと戻る間に冷えピタをおでこに貼る。ひんやりとして気持ち良い。
「思いっきしずれとるで」
「えっ、マジで!?……直してくれー」
「…なんで自分でやらんのや……」
傾いた向きで貼ってあったのを剥がすと燐が反射的に目を瞑った。勝呂は内心笑いながらきっちりとした向きで貼り直す。呼び掛けで貼り終えたのがわかると2、3度触って確認し、なぜか燐は顔を中心に寄せたように変な表情をした。そのまま歩きだしたのでついていく。
「…冷えピタって1度つけたら生暖かいままなんだな」
「そりゃ当たり前やろ」
「ちえー…」
腕を頭の後ろで組み口を尖らせる。勝呂はよくわからないというような表情で燐を見てから一伸びした。
少しするとそこそこの大きさのファミレスらしき店が見えてくる。目的地が迫ると燐はチラチラチラチラ勝呂を見だした。どことなく嬉しそうな不細工な顔をしている。
店内に扉を押し開けて入るといらっしゃいませと定員が声を張る。そのまま空いている壁際の席に案内された。向かいに座る燐を見て勝呂はあっと言う。
「もう店内なんやからそれ、外しぃや」
「…折角貰ったのに外せねー」
「かまへんて…。ま、それより早よ何食べるか決めたらええ…」
「ヘヘヘー、どれ食おっかなー!アイス…じゃ、なんか物足んねーよなー」
「………」
どうしてこいつは気持ちがこんなに早変わりするのだろうと言葉を置き去りにされた勝呂は硬直しながら疑問に思う。怒りを寸前まで抑え込み、メニューを読むのに没頭した。
「もう押していいかー?」
「ゆうてから押せコラ」
開きっぱなしの口を動かして定員を呼ぶボタンを押していいか聞くもその前に勢い余って押してしまい勝呂に怒られた。幸い頼むものも決まっていたし特に害はないが。すぐに定員が注文をとりに来て燐が先に頼み始める。
「俺はこのホットケーキセットで。勝呂は?」
「このティラミス&プリンを…」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
燐は注文をとってくれた定員が離れていったのを確認するとおかしそうに笑った顔を勝呂に向けた。大体勝呂にも燐の言わんとすることがわからなくもないが。
「勝呂ぉ…お前2つセットとか欲張りだな!」
「ホットケーキにアイスやらフルーツやら盛ってあんの頼んだお前にだけはゆわれとぉないわ!」
「だって冷たい物食べにきたのにアイス的なの入ってないと意味ないじゃん?」
「ほぼ意味を成しとらんわ阿呆」
この話題に噛みついたまま離れそうにないのを察した勝呂は話を変えることを試みる。
「そや、奥村は料理しはるんやろ?スイーツとかも作るん?」
「ん?スイーツ?そーだなー……」
顎に手を当てて考え込む燐。どうやら話をそらすことに成功したようだ。だが勝呂はなんでこんな話題にしたのか自分が不思議でしょうがないようだ。自分は燐にスイーツを作って貰いたい…?1つ考えが思い浮かんだがすぐさま阿呆かと濁らせた。
「まあ…誕生日ケーキくらいなら作ったことはあるな…。なんだ?俺になんか作って貰いてぇのか?」
「はァッ!?っなわけないやろ!」
「…なんだよ、そんなあからさまに言うことねぇじゃん……」
しまった、失敗した。いきなりあんなことを言うから反応してしまった。
再び機嫌を悪くされため息をつく。丁度お待たせしましたと料理が運ばれてきた。不機嫌な燐は自分だけさっさと食べ始めてしまった。勝呂もしょうがなく食べ始める。無言の時が30秒ほど続き、とうとう勝呂が目を反らしたままなんとなく言った。
「……今度俺にもなんか作れや」
「はっ?……え、どうしたんだ勝呂?」
「だっから、俺はお前の作った料理が!」
「食いてえのかっ!なんだよ最初から素直に言えよー」
ハハハと陽気な燐になんだかよくわからないがイラッときた。しかし反面、ちょっと得をしたと思ってしまう自分が恥ずかしい。
燐と勝呂では食べる量が明らかに違うので、先に食べ終えてしまった勝呂はアイスティーを頼んだ。燐は食べるのが早い方ではあるがまだ少しかかりそうだ。幸せそうにスイーツを頬張る燐を見ていると口元が緩みそうになるがなんとか耐える。そんな勝呂に燐は口に入っているのにも関わらず話かける。
「ところでよー、スイーツって何食いてえの?」
「いきなり具体的に聞かれたところで思いつかへん」
今運ばれてきたばかりのアイスティーを飲みながら答える。燐は頬張りながらそうかーと呟いた。宙を見ているから悩んでいるようだ。
「じゃあ今度俺の部屋こいよ。レシピ色々あるから選んでもらって作る」
「はあ…お前がええなら甘えたるわ」
「勝呂のくせに遠慮がちにすんなよー」
「どういう意味や」
テーブルの下で小さくガッツポーズ。一石二鳥な約束が取りつけられた。ただまぁ、雪男次第なのだが。
いつの間にか燐が大量にあったのを完食していた。勝呂もアイスティーを飲み干し、少し涼んでから会計をして店を出る。どうしても店内と外では温度差があるので無意識に声を上げてしまった。燐もまたダラダラと弱音を吐きながら歩く。
「あっちぃー…」
「そのわりになんやこの手」
人目がないので燐は自分の手で勝呂の手を絡めとった。肩もなんとなく密着して暑苦しいような嬉しいような何とも言えない気分だ。今日の燐は甘えが激しいのは感じていたし振り払いはしないのだが。
「こんなことして暑苦しいけどよー…。安心?するんだよなー」
「……アー、ホンマになんやのお前……」
2人は顔中まで熱くなった。バカップルというものだろうか。志摩にはいつも夫婦のようだと言われるがバカップルのほうが何故かしっくりくる。
「……や、やっぱ恥ずい…」
「お前からしといてやめるとか許さへん」
騒がしく動く影が重なりあう。
コイ影(離せーっ!なんか…あついんだよー!!)
(あーうるさい騒ぐなや!!)
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二重の意味であついです。
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