恋人逹に祝福を
校内のあらゆる場所に生徒逹の話し声が溢れている。そんななんでもない空気さえ心地よく感じる昼の御飯時、軽快な足取りで鼻歌を歌いながら志摩廉造はいつもとは違う場所へと向かった。
大きく振られた両手が見える。声は聞こえないが動いている口はこっちだぞと言っているようだ。そんな相手により大きく手を振り返してやる。
「遅せぇぞ志摩ー」
「いやぁー授業が長引いてもうてな、堪忍な奥村君!」
木陰に座っている燐の隣に謝りながら腰をかける。その直後、燐の腹から大きな音が鳴り響いた。あまりに可笑しくて志摩は爆笑しはじめた。
「ハハハハッ、そないにお腹空かしてたんっ?先に食べとってよかったんにー」
「良いんだよ…俺が待ってたかっただけだし」
「ほんま奥村君はかいらしなぁ」
ぷくぅと膨らんでいる燐の頬を両側から手で撫で回しながら言う。満足すると頬から手を離し、今度は頭を撫でてやる。燐は微妙な恥ずかしさから撫でられて赤くなった頬をさらに赤くした。
「そんな事ばっかしてねぇで早く食おうぜ…」
「照れる奥村君もええわー」
ま、この辺で止めたろか、とようやく手を自分の膝へともどした。燐は体を縮こませながらも持ってきた弁当箱のうち1つを志摩へと押し付けた。
「折角お前のために作ってやったんだからちゃんと食えよな…」
「うわあ、ありがとお奥村君!頼んでよかったわー」
志摩は嬉しさを隠しきれない様子で弁当箱を開ける。隣で上がる感嘆の声に満更でもない顔をしながら燐も弁当箱を開けた。愛妻弁当…と呟く志摩の腹を肘で小突く。危うく弁当箱を落とすところだったが志摩の執念がそれを許さなかったようで即座に受け止めることができた。
「ちょお奥村君!俺の弁当落ちるとこやった!」
「落ちてないからいいだろ」
「まあ絶対落とさんけどネ…」
目線を弁当に戻し黙々と食べ続ける燐の横で志摩もうまいを連呼しながら食べ始めた。他愛もない話をしながら食べていたが突然志摩が要求してきた。
「なぁなぁ奥村君、『はい、あーん』とかしてくれへんのー?」
「してほしいのか?」
燐は特に嫌がる素振りも見せなかったのでそのまま押してみることにした。
「是が非でもしてほしい!今日は恋人の日やから尚更ー!」
「ふーん……」
燐は食べる手を止め少し考えこみ、わかったと言って志摩の弁当箱に入っている玉子焼きを1つ箸でつまんでゆっくり志摩の口元へと運んだ。
「あかんなぁ奥村君、ちゃんとゆうもんゆってくれんとー」
「……ぁ、…あーん……」
いざ言うとなったら恥ずかしくなったがちゃんと言うことが出来た。つままれている玉子焼きをパクりと食べる志摩の顔は何ともいやらしい。一方燐の方は耳まで赤くしながら遅いペースで弁当を食べることを再開した。
「ああー今なら往生してもいいですわ…」
「勝手にしてろ…」
ほぼ一方的に志摩が話しているうちに2人とも弁当を食べ終えた。ごちそうさまと言い弁当箱を元の状態に戻して燐に返す。
「うまかったで!また作ってくれるん?」
「どうしてもっつーなら考えてやらん事もない」
「奥村君…好きやぁー!!」
「どわっ!止めろー!」
いきなり飛び付いてきたと思ったらものすごく抱きつかれた。はたから見たら取っ組み合いをしているようにしか見えないが、同時に楽しそうにも見えた。
恋人逹に祝福を(どわーっ!どさくさに紛れてキスすんなー!!)
(ええやん減るもんやあるまいしー!!)
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今日が恋人の日と知って急いで書きましたー。
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