甘くて甘くて

「坊ってリップとか持ち歩くんやねぇー」

「志摩…お前何しとるん」


休日の昼過ぎ、志摩を残して小時間席をはずしていた勝呂が寮の一室に戻ってきた。だが彼の目に入ったのは人のスクールバックを荒らす志摩の姿と、その周りに散乱した勝呂の私物だった。

勝呂は額に青筋を浮かべている。気づいていない振りをしながら探り続けている志摩は心なしか、額に冷や汗がつたっているようにも見える。


「あ、ミンティアや」

「志摩…」

「チューする時えらいミントの匂いがすると思っとったけど」

「志摩ぁ…」

「なんや、これのせいやったんか…」

「志摩ッ!!」 

「はいぃっ!?」


痺れを効かせた声が部屋を揺らす。ばれないわけがないと確信はしていたものの、やはり怒らせてしまうのは失敗だったと後悔する。
目にうっすら涙を浮かべ、志摩は恐る恐る声の方へと体を向けた。


「何をしよるかお前は!!」

「こ、好奇心で…つい……。かっ、堪忍なぁーっ!」


床に頭をぶつけるのではというくらい激しく土下座を繰り返す。重い溜め息が頭上から聞こえるとゆっくり顔を上げた。かがまれてよく見えるその顔は、志摩が想像したより普通だった。


「これくらいで怒りを引きずっとられへん。お前と付き合うゆうんはこういうことや」

「坊かっこ良すぎやずるい」

ニタニタ顔を綻ばせ、かがんだままの勝呂の体に好きやーと言いながらのっそりと抱きついた。


「ちょお離せ志摩、暑苦しいわ」

「嫌やぁー。坊かて嬉しいやろ?ネッ?」

「別に誤魔化せてるわけやないんやで?」

「坊のバカァ……」


坊なんて嫌いやわ…と悪態づいてやるも、さっきは好きゆうてたやないかと軽く流されてしまう。そんな抱きついたままの志摩の頭をポンポンと叩きながら思い出したように呟やいた。


「菓子買うてきてんねんけど…食うか?」

「あら?いつ買うてきたんですか…」

聞きながら思い立ったようで語尾が小さい音量になった。勝呂に絡み付いていた腕をほどいていかにも謎を解いているみたいに片手を顎に当ててみる。


「もしかしてそのために席外してはったん?」

「そうや、志摩と違おて頑張っとったんや」

「引きずらないゆうてたくせに…」

口を尖らせ反抗しておいたがすぐに元に戻って問いかけた。

「して、何を買うてきたんですか?」

「抹茶ババロアや」

「ブフウッ!!」

かいらしっ!あかん、チョイスがかいらしすぎるっ!
「何笑ってんのや」

「だっ、だって、あの坊が抹茶ババ…ブッ!あかんあかんあかんッ!!」

「いらんなら俺が2つ食うから安心せぇよ…」

「冗談!冗談ですやん!いやぁ坊が折角買うてきたんやさかい、ちゃんと食べんとなー!」


手をブンブン振って否定をする志摩の頭に抹茶ババロアが入ったカップをコツンと当ててやった。へへへーと両手で受けとる姿は何とも憎めない。


「ありがとおな坊、頂きますー」

「おう、早よ食え」


志摩は一口すくって食べると、んーっ!と感動したように声を上げた。その様子に勝呂も満足げのようだ。


「志摩、キスしようや」

食べ終えて少したち、勝呂が言った言葉に志摩は明らかに動揺の色を見せる。急にどうしたんだと言い終える前に志摩の唇を勝呂が奪う。


「ん…っ…!?」


軽く空いた隙間から舌を滑り込まされた。2人の舌が不器用に絡み合う。


「ふぅ…ン……」

「ん……」

「っ、ハァ…」


息が苦しくなる直前に舌が離れる。ケホッと咳をしてから、目を見開き勝呂に問い詰めた。


「い、いいいきなり何すんです坊っ!!」

「今日はミントじゃないやろ?」

「なっ!?」



甘くて甘くて
(もう今の反則やろおっ!!)




―――――――――――――――
勝呂が一枚上手な勝志摩が好き。



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