DRRR!! | ナノ







目の前にかざした小さな小瓶。中で色のない透明な液体が窓から射し込む太陽を受けて煌めき、部屋の向かいで座り眠る彼が小さく揺れた。









人を一人殺すなんて実はとても簡単だ。一握りの殺意とそれを実行に移す衝動。自分の立場などを省みなければ道具や計略なんて要らない。人間の脆さは僅かな殺意であっさり崩されるのだ。

しかしそれがかなわない時がある。理由はその時々によって違うだろう。だがその根元は同じ――殺意を上回る人間の強さ。自ら殺意を殺す理性であったり殺意の具現を押し留める相手の力であったり。どちらにせよ、人を殺すに及ばない。


「……何してんだ?」
「首、絞めてるの」


なんて間の抜けた会話だろうか。しかし相手が平和島静雄だと成り立ってしまう。黙りこんだままキレずにいる彼は多分まだ状況を把握できていない。馬鹿だし仕方ない。そう考えると虚しさに首へかけていた力が抜けた。
静雄は何も言わず、ただ物問いたげな視線で私を見つめた。


「静雄ってどうすれば死ぬんだろって考えてたんだ」
「…………」
「だってさ、考えたことないでしょ。寿命が来るまでに死ぬことがあるかもとか」
「…………」
「もし想像したことあったとしても思い浮かばなくない?銃で撃たれてもダンプに轢かれても死なない。ならどうやって死ぬの?」


きっと、彼が死ぬ時は年老いてしわくちゃになって、突然老衰で死ぬんだろう。人間の最高年齢くらいは軽く更新して。今話題のピンピンコロリみたいな死に方で。そしてその時きっと、その隣に私はいないのだ。静雄はそんな想像もしたことはないのだろう。


「…お前はどうなんだよ」
「私も全然自分の死に方なんて思い浮かばないよ。だけど一つだけ、嫌なの」
「何が」
「私が死ぬのを、死んでるのを静雄に見られるのが、嫌」


別に私が死んでるのを見て静雄が死にたくなるんじゃないかとか思ってるわけでも死ぬことで静雄を嘆かせるのが嫌だなんてわけでもない。さすがにそこまで自己陶酔的になれない。自分の死を見られたくない理由なんてのはもっと、勝手なもの。


「実際のとこ、死なんて美化できないの。怖くて気持ち悪いわけよ。そんなの静雄に見られるくらいなら――先に静雄を殺したい、そう思うくらい」



自分もきっと、静雄の死を恐怖する。嫌悪する。だが、自分の死を静雄に見られる恐怖、嫌悪感に比べれば。


「どうすれば静雄が先に死んでくれる?」


愛していると言える人間を殺すことをも厭わない。狂っているのだろうか。少なくとも常軌を逸している考えであることは間違いない。それでも、私はやはり彼を殺したいのだ。

答えを待つ私を見据えて、ふと彼は眦を緩め無造作に私の頭に手をやり微笑んだ。


「とりあえず、寝とけ」


そう言って腕の中に抱き込むように包み込まれた数秒後には規則正しい寝息が聞こえてきて安堵だか失望だかわからない息を吐く。もう何度めかもわからないこの問答。寝ている彼の首に手をかけては全く同じことの繰り返し。静雄が本当に寝ぼけているのか否かはわからない。わからないということにしておく。だが多分終わらせようと思えば簡単に終わるのだ。彼の方から終わらせようと思えば私の息の根を止めることなど容易だ。私はといえば――ポケットの中。小瓶の感触を確かめる。そうして身体中に伝わる彼の鼓動を感じながら、それを止めるその瞬間を夢見て眠りにつく。





ポイズンはいかが?
きっといつか私はそうして冷たくなった彼に恐怖し、嫌悪しながら愛していると告げるのだろう




企画サイト小夜曲様提出作品
狂愛未満。相手を殺して自分の物にという思考はしかし静雄に向けようと思うとどういうものなんだろうかという考察の結果。
実に一年ぶりの夢なのでいろいろひどいですが企画参加させていただきありがとうございました!






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