2022.6 衣替え 倉持


春から冬へ。冬服から夏服へ。

季節や気温の移り変わりと共に、この間までは紺色の上着に身を包んでいたクラスメイトたちが、気が付いたらいつの間にか上着を脱いでカッターシャツの白色になっている。長袖シャツの袖を折っている者に、半袖シャツを着てもうどこからどう見ても夏さながらな格好をした者。
教室中が白色だらけになったななんて思いながら窓の外を見ればじりじりと太陽が照りつけていて、梅雨なんて来ないような気もする。

だけどふと隣の席へと視線をやれば、その席の人物はまだ長袖シャツの袖も折らずにきちんと着ていて。

「倉持って寒がりなの?」

まじまじと隣を見て呟いたら、倉持が眉間に皺を寄せて怪訝そうな表情でこちらに振り向いた。

「あ? 別に普通だろ」

普通、とは一体なんなのか。少なくとも例に漏れずに長袖シャツの袖を折っている私からしたら、暑くないのかと不思議でたまらないから普通ではない。
えー、暑いけどなぁ、なんて思いながら首を傾げると、私につられたのか倉持も首を傾げている。

「でも倉持ってみんなが半袖の時も結構いつも長袖着てない?」
「まあ、暑くないからな」

それはすごいなと感心しながら倉持越しに再び窓の外を見れば、やっぱり太陽が照りつけていて。見ているだけでもじんわりと汗が滲んできそうで暑くないとはとてもじゃないけど言えない。
すると今度は倉持がこちらをまじまじと見てきていた。その視線に変に構えてしまって「な、なに!?」と情けない声を上げるとふっと表情を緩めた倉持が眉を下げた。

「いやお前って意外と俺のこと見てんだなと思っただけだよ」
「別に普通でしょ」

倉持と同じ“普通”という言葉で返したけれど、倉持は「ヒャハハ、どうだかな」と口角を吊り上げ笑っていて、いかにも楽しそうだ。
そんな倉持には何もかもを見透かされているような気がして、「普通だよ!」と勢いよく机に突っ伏したら、直接触れた机から腕にひんやりとした冷たさが伝わってくる。

腕が冷えていくにつれて、顔の熱もいくらかはマシになっていく。

暑くなった顔を冷やすためにもやっぱりもう衣替えの時期だななんて訳のわからないことを先程ショートしそうになった頭で思った。だけど長袖シャツの袖も折らずにきちんと着ている倉持の姿が好きだからまだ見納めするには少し惜しくて。

ちらりと倉持を見たら、目が合った倉持が眉をひそめてそっぽを向いてから頭を掻いた。そんな倉持の様子に、再び私の顔には熱が集まる。

やっぱりもう衣替えの時期らしい。


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