2022.6 衣替え 栄口


西浦高校は私服校だ。よって衣替えの期間なんてものはない。
だからいつでも気候に合わせて自分の好きな格好でいられるのだけれど、まだまだ気温も曖昧なこの時期に好きな人と服の袖の長さが同じだからといって、それだけで嬉しくなって少し運命も感じてしまうのはさすがに軽率なのだろうか。
でも好きな人と同じ感性だということだから、やっぱり嬉しいし運命を感じてしまっても仕方がないとも思う。だって恋っていうものはどうしても盲目になってしまうものみたいだから。

◇◇

一昨日は少し暑かったから薄手の長袖。昨日はまた気温が逆戻りして肌寒かったから上着を羽織った。そして今日は昨日の肌寒さが嘘みたいに暑いから半袖。

最近の地球は大丈夫なのか、これが温暖化ってやつなのかと心配になるくらいに毎日毎日コロコロと変わる気温。もう少ししたら梅雨で、その後に待っているのは夏だというのに気温はまだまだ安定しない。


通学途中にすれ違った人は長袖の人が多かったからまだ半袖は早かったのかと思いながら、駐輪場に自転車を停めてからふと周りを見渡せば半袖を着ている人がちらほらといた。私も半袖だからホッとしながら教室へと向かっていたら、不意に後ろから声を掛けられた。

「はよ!」

聞き馴染みのある声に呼ばれて振り向けば、そこには一昨日も昨日も私と同じような格好をしていた栄口くんがいて、今日は半袖の服を着ていた。

おはようと返事をしながら、今日は栄口くんも半袖なんだなんて心の中で思っていたら、少し早歩きで隣に並んだ栄口くんがタイミングを伺うかのように頬を掻いている。

そんな栄口くんを不思議に思って見ていたら、こちらに振り向いた栄口くんと思いっきり目が合ったから、あははって笑ってみる。栄口くんも眉を下げて笑っていたけれど、顔が赤くて。なんとなくお互いに無言になってしまう。

私は栄口くんに、……好きな人に、そういう表情を、反応をされる度に、もしかしてって思いたくなる。
だけど、聞く勇気も告う勇気もなくて。このままでも今はもう十分幸せだから先には進めなくて。もどかしいけれど、こういう無言の時間だって嫌いじゃなくて。

教室へと続く廊下を隣同士で並びながら無言のままで歩いていたら、突然栄口くんがこちらへと顔を向けた。

「……あのさ、今日、君も半袖なんだね!」

そう言い切るとはふっと息を吐いた栄口くんはやっぱり顔が赤くて。なんでもないただの世間話なのに私もつられて顔が熱くなる。

「栄口くんも半袖だね」
「まぁー、今日は暑いからね」
「そうだね、暑いよね」

オウム返しをするかのように、半袖だ、暑いって言葉をお互いに繰り返している間に教室に着いたから二人揃って教室へと入った。
だけどクラスメイトはまだ長袖を着ている人ばかりで。
ふと栄口くんを見たら、同じくこちらを見てきた栄口くんがコソッと言った。

「オレと君は感性が似てるのかもね」って。

顔を赤くさせながら眉を下げてはにかんだその笑顔とその言葉に、私はやっぱりもしかしてって思いたくなるし、運命だって感じてしまうんだ、なんて。



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