ある女の子とよく目が合う話 (東リべ/千堂敦)

少し前からやけによく目が合うヤツがいる。隣の席の女の子、みょうじだ。


授業中に目が合っても初めのうちは、オレが窓際の席だから窓の外でも見ているのだろう、だから目が合う気がするのはきっと気のせいだ、そう思っていた。

だけどその子とは休み時間でも廊下でも体育の授業でも帰りの下駄箱でも、とにかくいつでも目が合った。

別にガンを飛ばした覚えはないし、挨拶したりちょっとした話だってしたりしていて関係は良好なはずだから何か恨まれるような覚えだって特にはない。てことは、オレが不良だから物珍しいということなのだろう。そう解釈したものの、いつの間にか彼女の姿を目で追うことが癖になっていたらしくその後も幾度となく目が合った。


「そういえばアイツ、いつもアッくんのこと見てない?」
「あー、確かに。で、アッくんが見たらすぐに目逸らすよね」

休み時間、オレはいつものようにタケミチたちと駄弁ってた。

アイツとはオレがよく目が合うあの子のことで、どうやらみんなも気が付いていたらしい。まあオレ一人の時にはすぐに目を逸らしたりはしないけど、と心の中でだけ呟くと続けた。

「でもオレのことか分かんなくねぇ?」
「いやいやアッくんだよ、絶対! オレこないだ廊下でも見てるの見た」
「アッくん、モテそうだもんなぁ」
「番はってるしなぁ」
「……いや、だったら目なんて合わさないもんじゃね、普通」

それもそうだな、だろ、と笑って彼女を見てみるとやっぱり目が合った。

そしてその後の授業でも変わらず彼女とは目が合った。

やっぱりそんなに見られる心当たりはないんだけどな。リーゼントが気になるのか? それともオレの髪色? 不良に興味があるとか?

目が合う理由を考えながら窓の外を眺めてみても秋空らしいイワシ雲が広がっているだけで理由なんて教えてはくれない。はぁ、と溜息をつくと思った以上に大きな声が出ていたらしく、彼女が心配そうに振り向いた。

「どうしたの? 大丈夫?」

小声で話しかけられたから体を近づけ小声で返す。

「わりぃ、驚かせて。大丈夫だぜ」

そう言って笑ってみたものの、緊張しているのか上手く笑えているのかが分からない。

「それならいいけど。何かあったら言ってね」

おう、とは言ったものの目が合う理由は分からないまま、また目合ったなと何度か思っているうちに放課後になった。

学校にいたところで理由が分かるわけではないから帰るか、と思って下駄箱に行くと彼女がいた。

「あ、千堂くん。本当に大丈夫?」
「あー、まあ、」

曖昧な返事をしたら彼女の表情が曇っていったからどうにか心配しないで欲しくて気がついたら腕を掴んでいた。驚いた彼女はオレを見上げて、本当に大丈夫? と首を傾げるから、話聞いてもらってもいいか?と呟くと手に力が入ったような気がした。

「……悪い」

ぱっと手を離すと、いいよ、一緒に帰ろうかと笑顔が見れたから安堵する。

二人きりの帰り道。前にも後ろにも生徒はいるけど会話が聞こえる程近くにいるわけではないから、オレたち二人しかいないような気さえしてくる。そんなわけのわからない感覚はまたもやオレに緊張を覚えさせた。

どうやって切り出そうかと頭の中で言葉を巡らせる。だけどいい考えは思い浮かばないからひとまずタイミングを伺うことにした。

「……あの……さー、」

ようやく意を決して口を開いてみたものの、今更オマエってオレのことよく見てねぇ? なんていかにも自意識過剰なことを聞くのは如何なものかと思って言葉を飲み込む。すると今度はぴたりと足を止めた彼女が口を開いた。

「私、今ね、千堂くんと帰れてることが夢みたいで嬉しい」

そう言ってオレの方へと振り返った彼女は真っ赤な顔をして笑っていて、そういえばこの帰り道で今初めて目が合ったことが思い出された。だけど何も言えずにいたオレの耳元に、彼女は背伸びをして近寄った。

「だって私、千堂くんが好きだから」

授業中に話した時みたいに小声で言った彼女は真っ赤な顔でもう一度笑うと、家ここなんだ、バイバイと手を振って帰っていった。

あー、だから今は全然目が合わなかったのか。オレが好きで緊張してたから、なぁ。

「……は?」

みるみるうちに熱くなっていく顔を手で隠しながらやっと理解出来た目が合う理由と目が合わない理由は、オレに恋心を確信させるには十分すぎる内容だった。



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