「夜ご飯。食おうぜ、一緒に」A -三ツ谷side- (東リべ/三ツ谷隆)

「……やべー、醤油切らしてる」

今日の夕飯の献立、肉じゃが。具材を切って炒めて煮込んだから、あとは味付けをしてまた煮込めば完成、……なのに醤油がない。

あー、そういやこないだ買っとかねぇとなって思ってたのに買い忘れてたもんな。そんなことを考えつつ、じゃあカレーでいいかとカレールウを探すもこれまたない。しょうがねぇ、買いに行くしかないな。

「ルナマナ! オレちょっと醤油買ってくるからわりぃけど留守番してろよ。もし誰か来ても出なくていいし電話も出なくていいから。あと、テレビはもう少し離れて見ろ」

二人揃ってテレビ画面に釘付けになっている妹たちにそう告げると、はーいと渋々テレビから離れたのを確認して、行ってきますと家を出た。


あのテレビ番組はさっき始まったばかり。スーパーに行って醤油買って帰ってきても時間は十分にある。

「時間……は、大丈夫そうだな」

公園の横を通りかかる時に公園内にある時計を確認する。すると同じクラスのヤツがベンチに座ってんのが見えた。もうすぐ日が暮れるってのに女一人で何やってんだ? そう思い、彼女の所まで行くとちょうど彼女が呟いた。

「……何やってるんだろう、私」
「オマエ何やってんの?」

ベンチにぽつんと座って、まだ開けてないおにぎり持って。こんな時間に一人でこんな所いて。何やってんだ? ほんとに。

「あ、三ツ谷くん」

不思議に思ってベンチに座る彼女を見たら、オレの声に気が付いたらしい彼女がちょうど顔を上げたから目が合った。いつもは友達と楽しそうに笑ってんのに、今はなんか元気なさそうだな。なんて考えながら彼女の手元に視線をやった。

「おう。で、何してんの。それメシ?」

彼女が持っているおにぎりを指さすと、そうなの、これが夜ご飯、と今にも泣き出しそうな顔をして彼女が笑った。そんな彼女の目にはみるみるうちに大粒の涙が溜まっていき、ついに頬へと零れ落ちた。そんな顔させたかったわけじゃねぇのに。泣かせたかったわけじゃねぇのに。ごめんな。

「……あー、悪い」

隣に座って指の腹で彼女の目の下をなぞると、次から次へと涙が溢れ出てきた。だけど彼女の目を何度なぞってみても、彼女の涙は止まらない。

それでも、オレがいるからさと触れているだけでは伝わらないだろう想いを乗せて、彼女を腕の中に包み込むと彼女は少し落ち着いたようだった。


「落ち着いた?」

オレの腕の中にいる泣き止んだらしい彼女の頭を撫でながらそう呟いた。すると彼女はオレの顔を見るなり慌てて逃げ出した。

「……ごめん! ありがとう!!」
「んな急いで逃げなくてもいいのにさ」

はは、と笑うと彼女もそうかもと言って笑った。今初めて見られた笑顔が嬉しいけど、あの逃げられ方は堪えるななんて思ったオレは、そうだよとだけ返した。そして改めて彼女に向き直るとずっと思っていた疑問を投げかけた。

「お前っていつもメシあんななの」
「あんな……って、コンビニのってこと?」
「うん。家で食わねーの?」

彼女をじっと見つめると彼女はぽつりぽつりと、両親が忙しいからたまにこういう時があること、でも普段は母親が作ったご飯を食べていることを話してくれた。それを聞いたオレは少し安心したからなのか、そっかと言葉が漏れた。そしてそのまま、あともう一つ聞いていいかと続けると、オレの声に彼女が耳を傾けてくれているのが分かった。

「なんで公園で食ってんだよ。もう少ししたら日が暮れるのに危ねぇじゃん」
「えっと……それは、」

オレの言葉を聞いた彼女は段々と俯いていく。オレは、さっきみたいに泣いてるように笑うオマエも、オマエの泣き顔もどっちも見たくねぇんだけどな。わりぃ、オレまたオマエのこと困らせちまったのかな。ごめんな。そう心の中で謝ると、……よし! と立ち上がる。するとそんなオレにつられて彼女も顔を上げた。

「まあいいか。何でも」

だろ、と笑って手を伸ばすと彼女がオレの手を掴んだからぐいっと引っ張った。するとオレに引っ張られた彼女もまた立ち上がった。そのまま彼女と手を繋ぐと、にっと笑って言う。

「まだおにぎり開けてないってことはまだ今日はメシ食ってないんだろ? じゃあオレんちで一緒に食えばいいよ」
「……夜ご飯?」
「おう、夜ご飯。食おうぜ、一緒に」

オレが歩き出すと彼女も歩き出した。おにぎりの入った袋を持つ方の手と、オレと手を繋いでいるもう片方の彼女の手。繋がれた手から伝わる体温が嬉しい。

「でもいいの? 私も一緒で」
「メシはみんなで食った方が美味いだろ。……あ、そういや醤油買いに来たんだったわ。ちょっとスーパー寄っていい?」

今更何のために家を出たのかを思い出す。時計を見たらまだ時間はぎりぎり大丈夫そうで。隣を歩く彼女を見て恐る恐るそう聞けば、ふふっと笑った彼女がもちろん! と言ってくれた。そうして再び笑った彼女とまだ大丈夫そうな時間に安心したオレもつられて、よかったと笑った。


スーパーのレジで金払う時に彼女と手を離さねぇといけねーのは惜しかったけど、醤油買って帰っても時間はなんとか大丈夫だったしルナとマナはちゃんと留守番出来てたみたいだしみんなが美味いって肉じゃが食ってくれたから、まあ今日のところは良しとしよう。



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