「夜ご飯。食おうぜ、一緒に」@ (東リべ/三ツ谷隆)

私は、誰もいない空っぽの家にいってきますと言って家を出て、誰もいない空っぽの家にただいまと言って帰ってくる。

両親は二人とも忙しい人だし私は一人っ子なのだから仕方ない。そんなことは分かっているけど、それでも稀に、ごく稀に突然寂しくなる。


慌ただしいはずの朝の短い時間にお母さんが作ってくれてある私の夜ご飯。それでも毎日作るのはやはり大変らしく、そんな日は『ごめんね。これで何か食べて』という置き手紙とお金が机に置かれている。そういう時にはそのお金で材料を買ってきて料理をすることもあるのだけど、一人だけの食事は味気ないからほとんどの場合コンビニのおにぎりやパンで済ませる。だってお腹に入ったらなんでも一緒だし。


◇◇


……今日もコンビニでいいか。

帰宅するなり、学校へ向かう前にはもう既に置かれていたお金を手にして再び家を出る。

今日は何を食べようか。おにぎり? それともパン? 別にどっちも気分じゃないのにな。お母さんとお父さんと一緒に食べる、お母さんの作ったご飯がいいのに。

はぁ、とついた溜息はすぐにどこかへ消えていく。そんなこと考えたって無理なことは分かってる。そうこうしてるうちにコンビニに着いたから、もう一度大きく溜息をつくと適当におにぎりを買い込んだ。

コンビニからの帰り道にある公園。そこのベンチに座ってコンビニで買ったご飯を食べるのが、気分が乗らない時、一人で寂しい時の私の日課になっていた。

段々と夕日で染まっていく公園を見ていると、もしかしたらご飯を食べるのが早すぎたかもしれない。後でまたお腹が空くかもしれない、と最初のうちは思った。だけど一人で、もそもそと食べたご飯は中々お腹からなくならないことを私はもう知っている。

はぁ。ベンチに座ると再び溜息をついた。結局どこで何を食べたって一人だったら味気ないことに変わりはないのに。

「……何やってるんだろう、私」

おにぎりを手にして、そうぽつりと呟いた時、聞き覚えのある声がした。

「オマエ何やってんの?」

その声で顔を上げると、そこにいたのは同じクラスといえどほとんど話したことなんてない三ツ谷くんだった。

「あ、三ツ谷くん」
「おう。で、何してんの。それメシ?」

三ツ谷くんが指さす先はコンビニのおにぎりで。そうなの、これが夜ご飯、と笑って話したはずなのに目が熱くて頬も熱くて、涙が伝っているような気がする。

「……あー、悪い」

バツが悪そうに謝る三ツ谷くんの指に目の下をなぞられ、やっぱり泣いてしまったんだと自覚する。だけど三ツ谷くんの指なのか私の涙なのかが温かくて熱くて、涙は次から次へと溢れてきてしまう。


「落ち着いた?」

私が泣いてる間ずっと隣にいてくれた三ツ谷くん。だけど気が付いたらいつの間にか、本当にいつの間にか三ツ谷くんの胸の中にいて、頭を撫でられていたから慌てて抜け出す。
「……ごめん! ありがとう!!」
「んな急いで逃げなくてもいいのにさ」

はは、と笑う三ツ谷くんになんだか申し訳ないような気がして。だけどもったいなかったような気もして、そうかもと私も笑い返した。そうだよと心做しか残念そうに笑った三ツ谷くんは、じっと私を見つめて言った。

「お前っていつもメシあんななの」
「あんな……って、コンビニのってこと?」
「うん。家で食わねーの?」

心配そうに私を見つめる三ツ谷くんに、両親が忙しいからたまにこういう夜ご飯の時があること、でも普段はお母さんが作ってくれてあるご飯を食べていることを説明する。すると、そっかと言った三ツ谷くんが、あともう一つ聞いていいかと言うので耳を傾ける。

「なんで公園で食ってんだよ。もう少ししたら日が暮れるのに危ねぇじゃん」
「えっと……それは、」

一人で寂しいから、とは言えなくて言葉に詰まる。さっきみたいに優しく涙を拭ってくれた三ツ谷くんなら、笑ったり怒ったりなんてしないことは分かっているのに何故か言葉が出てこない。

すると俯いていく私の隣で三ツ谷くんが勢いよく立ち上がった。

「まあいいか。なんでも」

だろと笑った三ツ谷くんに手を差し出され、なんのことかも分からずに手を伸ばすと、ぐいっと三ツ谷くんに引っ張られた私もまた立ち上がる。

「まだおにぎり開けてないってことはまだ今日はメシ食ってないんだろ? じゃあオレんちで一緒に食えばいいよ」
「……夜ご飯?」
「おう、夜ご飯。食おうぜ、一緒に」

引っ張られた手はいつの間にか繋がれていて、三ツ谷くんが歩き出したから私もつられて歩き出す。

「でもいいの? 私も一緒で」
「飯はみんなで食った方が美味いだろ。……あ、そういや醤油買いに来たんだったわ。ちょっとスーパー寄っていい?」

もちろん! と答えたらまた目が熱くなったような気がした。だけど繋がれた手と、よかったとはにかむ三ツ谷くんが気になるからそんなことはもうどうでもよかった。



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