最近急に自分の所に来なくなった元クラスメイトのことが気になる三ツ谷の話 (東リべ/三ツ谷隆)

三ツ谷くん、辞書貸して!
体操服に穴開いた…。三ツ谷くんどうしよう……!!
三ツ谷くん! 理科の教科書持ってない?

今までそうやってオレのクラスまでわざわざ来ていたアイツが最近急に来なくなった。
まあそれはつまり、忘れ物をしなくなった。オレ以外に借りる人が出来たということだろうから悪いことではないし、むしろ良いことなのだろう。でも今まで散々オレの所に来ていたのに急に来なくなるのはいかがなものか。


今までの当たり前がほんの少し変わるだけで、なんとなく日々は変わって、少し寂しいような気さえするものなのに。


彼女と出会ったのは去年の春だった。二年に進級して新しくなったクラスでただ隣同士の席だったというなんともありきたりな出会い。

彼女はどこか抜けているところがあるけど一生懸命で目が離せなくてつい世話を焼きたくなった。いや、正確には気が付いたら世話を焼いていた、かもしれねぇけど。
彼女が落とした教科書を拾う。先生に呼ばれてんぞと教える。黒板の上の方が届かないみたいだから代わりに消す。
改めて考えてみると世話を焼いたってほどではない気もするけど。でも、彼女に度々構っていたのは否定出来ない。

オレがそうやって構う度に彼女は、三ツ谷くん三ツ谷くんってどう考えたって見た目も不良なオレの所に来てくれるもんだからそれが嬉しくて。優越感もあって。

他のヤツにはこのポジション譲りたくねーなと思っていたところで三年になりクラス替え。クラスは離れてしまったけど、それでも彼女は用があるとは変わらずオレのクラスまで来てくれるから安心したし、オレたちはこれからもこのまま変わらずにいられるんだなって思った。

でも三年になって数ヶ月が経った頃、彼女が急に来なくなった。

それはただ単に忘れ物をしなくなっただけなのかもしれない。オレ以外に借りる人が出来たのかもしれない。良いことなのに、もしも後者だったりしたら、オレ以外にそんなヤツがいるのだったりしたら、それはとても面白くない。


クラスが違うだけで意外なことに顔は中々見れないし、話すことなんてもってのほかだ。それでも彼女がオレのクラスにまた来てくれればいいだけだし、そもそもオレが彼女のクラスに行けばいいだけだ。

彼女は今何してんだ? やっぱりオレ以外に物借りれるヤツいんのか? それって男だったりしねぇの? そんでソイツと今、楽しく話したりしてねぇよな?

「……オレがいんのになぁ」

最近は休み時間の度に教室の外を気にしたり、用もなく廊下に出たりしてしまっている。んな、ぐるぐるぐるぐる一人で女々しく考えてたって何の解決にもなんねぇのにな。

「くそ、ダサいなオレ」

頭をガシガシと乱暴に掻くと立ち上がる。

「シャ! 行くか!」



キョロキョロと彼女の教室を見回すと、友達と楽しそうに話している彼女が見えた。男じゃなかったことに安堵し、彼女の名前を呼ぶと彼女はオレに気付いて友達に何か告げやって来た。

「悪い。話してたよな」
「ううん、大丈夫だよ。三ツ谷くんと話してくるねって言ってきたから。どうしたの三ツ谷くん?」

きょとんと見上げられるから、急に来られても困るよなと思ってしまい言葉に詰まる。

「……いや、最近オマエ見ないからさ。どうしてんだろって思って。元気だった?」
「元気だよー!本当にどうしたの急に」
「……あー、っと……忘れ物、とかは……してない? 最近」
「流石の私もそこまでは!」
「…そりゃそうだよな」

ふふと笑った顔が久々に見れたのが嬉しくてニヤけそうになってしまう。

「オマエが最近来ないからオマエのことばっかり考えてたんだけど、オレ。なんで急に来てくれなくなったの?」
「えっと、それは、」

もごもごと言いにくそうに彼女は俯き呟いた。

「……私が三ツ谷くんに頼りすぎだってクラスの人に言われたから行きにくくて」

段々と声が小さくなっていく彼女。
んなこと気にしてたんだな。気にしなくていいのにさ。オレはそんなこと全く気にしてないし気にならねーのに、気にさせちまってごめん。

「頼りすぎなんてことないよ。オレはオマエに頼られるのが好きだし嬉しいし優越感あったし」

本当に? と顔を上げた彼女に、嘘ついたって仕方ないだろと笑う。ほっとしたような喜んでくれてるように緩む顔につられて嬉しくなる。

あ、あともう一つ、言っとかねぇとな。

「つーかオレさ、オマエが来てくれなくなって今まで寂しかったんだけど。……オマエは?」

ん? と顔を覗き込むとみるみるうちに顔が赤くなっていく彼女が、私もと呟くから、寂しかったのがオレ一人じゃなかったことに安心して嬉しくなって彼女の頭をぽんぽんと撫でた。

「オレがもっと早くに来たら良かったんだな、わりぃ。でもオレ、多分明日にはまたオマエと話したくなってると思うんだわ。だからさ、また明日も来ていいか?」
「私も……! 私も行く!」
「おー。じゃ、すれ違わないようにしねーとな」

ん、約束なと小指を出す。

指切りだなんて子供じみてるかもしれねぇけど、それでも今日の彼女と何かを残したくて。
明日また会う約束をすると、二人で顔を見合わせ笑って指切りをした。





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