*想像と違う松野くん (東リべ/松野千冬)

同じクラスで隣の席の松野千冬くん。

私は彼のことがとても気になる。

松野くんはいわゆる不良で、髪は金髪でリーゼント。ピアスだってしている。彼は入学早々、不良の先輩に呼び出されたみたいだけど余裕で勝たんだって話も友達に聞いた。

みんなはそんな松野くんが怖いみたいだけど私は違う。松野くんは私が想像していた不良とは違って、学校には毎日来るし制服もちゃんと着てる。授業もちゃんと受けてるしすぐに睨んできたりもしない。初めて松野くんを見た時にはちゃんとネクタイしてるんだ、良いなと思った程で、本当に松野くんは想像とは全然違うのだ。


国語の時間、漢字の小テストを隣の人、――つまり私は松野くんと交換してお互いに答え合わせをすることになった。

「これ頼むわ」
「うん、私もお願い」

そうして渡された松野くんの答案は、全20問のうち半分くらいが埋まっていた。松野くんの文字は、とめはねはらいがしっかり書かれていて丁寧で綺麗で、やっぱり想像とは違う。

ちらりと隣を見ると松野くんは、先生が黒板に書いた答えと私の答案とをにらめっこしているからなんだかおかしくなってくる。

「……松野くんって字が上手だね」
「そうか? まあでもオマエが読めねーと悪いからさ。丁寧には書いたつもりだし読めたんならよかった」

にっと笑った松野くんの笑顔が可愛くて思わず目を奪われる。松野くんがこんな顔で笑う人だなんて知らなかった。やっぱり松野くんは想像とは全然違うんだと頭の中で反芻していたら、松野くんが答え合わせに戻ったから私も慌てて視線を戻す。

するとしばらくした後、松野くんが私の方に体を向けた。

「オマエ満点じゃん。すげぇな。……100点、と!」

ほら、と返された答案には花丸が書かれていて。そういうところもやっぱり良くて、想像とは違って。胸の奥がきゅうっとなる。

賢いんだなオマエって感心したように笑う松野くんが、先生よりもオマエの字の方が見やすいなって再び私の答案とにらめっこをし始めたから、私も松野くんみたいに文字は丁寧に綺麗に書こう。改めてそう思う。


松野くんの書く文字も笑顔も花丸も、松野くんも、何もかもが想像とは違ったけれど、私以外のみんなはまだそのことに気が付かなくていいのに。

なんて少し思った、とある日の出来事。



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