*テレパシー (松/松野おそ松)
今日は仕事が早く終わったから遠回りでもして帰ろうかと偶然通りかかった河川敷でおそ松を見つけた。
寝転がって目を瞑る彼に、何してるのと聞いたら「テレパシー送ったらいっつもお前が来るんだよね」と彼は、なははと笑った。
◇◇
「……ねぇ、おそ松。勤務地移動することになった」
「……へー、どこに?」
「隣町、なんだけど終了時間が遅いところ」
「え、まじ? そんな働かなくても良くない?」
「そういうわけにもいかないでしょ」
「え〜、そういうもん? まあとにかく頑張れよ」
頭の後ろで手を組んで他人事だからと言って軽く笑われたのはついこの間。
だけど思っていた以上に慣れない支店での勤務に長時間の勤務は心身共に疲れる。今朝なんて駅でおそ松の幻を見てしまったほどに。
今日も一日疲れたなぁと溜息をつきながら職場を後にする。
すると後ろからトコトコという足音がついてきて、それから「おかえりー。おつかれー」という明るい声がした。振り向けばそこにはおそ松がいて。なんでいるのという声も出ない私を見て不思議そうに首を傾げていた。
「おそ松?」
「そう、俺おそ松でーす!」
にっと笑った彼はじっと見つめる私の視線に気が付いたのか「だってお前がテレパシー送ってきたじゃん? だから来た」と目を細める。
「……テレパシー、送ったっけ?」
「送っただろ、今日の朝。駅で」
今日の朝といえば、おそ松の幻を見た。でも駅で、ということはつまり……。
「……え!? あのおそ松って本物だったの?」
「本物ってなんだよそれ。俺は俺なんだけど」
不服そうに呟いた彼は、ししっと吹き出して笑った。それから私の頭をわしゃわしゃと撫でてやはり笑う。
「お前がいっつも頑張ってるから褒めに来たんだけどさ、気をつけないとテレパシーで思ってること全部俺に伝わってるからね」
「たとえば?」
「俺のことが好き、……とか?」
おそ松が自分で言っておきながら自分で照れる。その様子がおかしくてつい笑みが零れる。
「確かに伝わってるみたい」
「……だろ」
一度視線を泳がせてからこちらを見た彼は「もしかして俺の気持ちでテレパシーで伝わってたりする?」と自信なさげに呟いた。それはテレパシーがなくても分かるんだけどなと、彼の赤い顔を見て思った。
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