暑い夏の日にアッくんと2人で帰る話 (東リべ/千堂敦)

私の部活が休みの水曜日、この日はアッくんと一緒に帰るのが毎週の恒例になっている。

カバンを持って下駄箱に行き靴を履き替えると、すっかり聞き慣れた蝉の鳴き声を背に受けながら待ち合わせをしている駐輪場に向かった。

校舎の横にある駐輪場は、屋根があるからなのか他の場所よりも心做しか涼しくて、自転車で学校に来ている人はそんなにいないから閑散としている。だから待ち合わせにはもってこいなのだけれど、それでなくてもアッくんのワインレッド色の髪はよく目立つ。

「アッくん!」

今日もすぐに目に入った姿を見つけて駆け寄れば、おーと笑ったアッくんが顔を上げた。急いで教室を後にしたはずなのにアッくんの額にはじんわりと汗が滲んでいる。

「ごめん、待たせて」
「いやオレも今来たところだからさ」

にっと笑ったアッくんにつられて、そっかと笑うと、そうそうとアッくんがもう一度笑った。すると駐輪場から自転車を取り出したアッくんが手を差し出したから、お願いしますとカバンを渡す。私のカバンはいつの間にか定位置になっているアッくんの自転車のカゴへと収まった。

カラカラと自転車の車輪が回る。そんな自転車に跨るのでもなく、ただ自転車を押して歩くアッくんの隣を私も歩いた。

「今日もあちぃよな」
「本当にね〜。窓開けてても入ってくるのは熱風で」
「あー、更に暑く感じるよなぁ」

眉をひそめて笑いながら他愛もない話をしているうちに校門をくぐった。その一つ先の角を曲がるとどちらからともなくピタリと足を止める。

「後ろ、乗る?」
「乗る!」

ようやく自転車に跨ったアッくんと共に私も自転車に腰掛けた。

「ちゃんと掴まってろよ」

腕を引っ張られるとアッくんの腰へと回された。二人乗りをするのは初めてではないからアッくんに触れるのだって初めてではないのにいつも緊張してしまう。だから出来るだけ力を入れないようにしていたのに。落ちるぞー、と笑うアッくんに再び腕を引っ張られた。

まだまだ燦々と輝く太陽が昇る青空には真っ白な入道雲。目の前にはアッくんの背中。大人への成長途中の中学生とはいえど、男の子のアッくんの背中は私とは違って大人みたいに大きいからそれが何故だか緊張する。

急いでいるわけではなく、かといってゆっくりでもなくアッくんが自転車を漕ぐ。脇を吹き抜けていく風は熱風とまではいかなくても、それでも生温い。

そんな風に髪をなびかせながらアッくんを見上げたら汗が伝っていた。やっぱり自転車を漕ぐには暑いのだろう。

「アッくん、コンビニ寄らない? アイス食べようよ」

肩をポンと叩くとちらりとこちらを振り向いたアッくんが、そうだなと笑った。

コンビニに着いたら二人分のカバンを持とうとしてくれていたアッくんからカバンを受け取って、アイスコーナーへとアッくんの背中を押す。

「アッくん! 好きなの選んで!」
「別にいいのに」
「いいから、選んで」
「……わかった」

半ば強引にアイスを指差したら、声を殺したアッくんに笑われた。
私はどれにしようかな。なんて考えながら、アッくんを見ると目が合った。

「なまえはどれにする?」
「んー、悩んでる」
「じゃあ一緒にこれ食べようぜ」

そう言って笑ったアッくんは冷凍庫の中からアイスを取り出した。レジに向かうアッくんを追いかけて慌てて財布を出したら、どーもなとアッくんはアイスを掲げた。

店内で涼んだ体には、店から一歩出ただけで灼熱が襲ってくる。それでも僅かな日陰を求めて軒下に隣同士並ぶと、早速袋を開けてるアッくんが二本くっ付いているソーダバーを折った。

「はい、オマエの。……とは言ってもオマエの奢りだけど」
「ありがとう。でももっと高いのでも良かったのに」
「これが食べたかったからさ。オマエこそこれで良かった?」
「うん、これ好き」
「知ってる」

アッくんの言葉に顔が熱くなった気がしてアイスをかじる。すると冷たさがやって来た後に甘さと爽やかさがやって来た。シャリシャリと食べ進めていくとふと目が合ったアッくんと、夏のアイスは最高だな、美味しいねと笑い合った。


「来週はオレがアイス奢る番な」
「またアイス食べるの?」
「どうせまた暑いだろうからさ」
「確かに」

アイスを食べ終えると再び自転車に腰掛けて家路を目指す。生温かった風はいつの間にか涼しい風に変わっている。

アッくんの腰に腕を回すと、夕日に照らされたアッくんの顔が赤く染まっていた。



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