彼女の特権、彼氏の特権 (鴫野貴澄)

貴澄は、なんというか危機感がない。

いつもだったら何だって誰だって受け入れてくれそうな笑顔を見せながらも隙なんて見せないのに、私の前では隙しかない。
それはつまり、私には心を許してくれている、彼女だけの特権ということなのだろうけど、それがやけに愛おしくて擽ったい。



「貴澄、起きないの?」
「……う〜ん」

今日は私の家でデートの日。

この俳優さんがかっこいいからこのドラマ観てみて!面白いから!と薦めたドラマは、どうやら貴澄には退屈だったのだろう。もう何度も観たドラマだというのにエンディング曲が流れるまでずっと目を離せずにいた私の隣で、貴澄がいつの間にか眠っていた。
ドラマを観始めた時と同じく三角座りのまま眠ってしまっている貴澄は、正直言ってとても可愛い。大きな体を丸め込んで小さくなって、すやすやと寝息を立てていて。その無防備さはずるいな、他の人には絶対に見せて欲しくないなと思うほどに。

何度名前を呼んでも一応返事をするだけの貴澄を起こそうと試みてもきっと意味はない。疲れているのだろう。だからこのまま寝かせておくことにした。

貴澄の寝息を聞きながらテレビを眺める。だけど面白そうな番組は何もやってなくて、つまらないなとテレビを消した。
その間も気持ち良さそうに眠っている貴澄へと体ごと向けたら、まだ同じ体勢のまま眠っていた。そんな貴澄の真似をして三角座りをすると、貴澄の寝顔を眺めてみた。

男の子にしては大きい瞳は閉じられていて見えないけど睫毛が長くて、眉毛はどうやら下がっているようだけど前髪で隠れている。

前髪、邪魔じゃないのかな。そう思って髪に触れれば、擽ったかったのか貴澄が顔を動かした。

こちらに顔を向けながら無防備に眠る貴澄。こういう姿はきっと私以外には見せてくれないのだろうなと思うと胸の奥がキュンとした。

「……可愛いなぁ」

そう呟いてみても、夢の中にいる貴澄には聞こえていない。そのことにほっとして貴澄にそっと口付けをしてみたら、寝込みを襲っているようでなんだかとても恥ずかしくなったと同時に顔中が熱くなった。



──



「……あれ?僕、寝てた?」

ふと目が覚めたら、僕の肩に持たれかかってキミが眠っていた。

起こさないようにと気を付けながら腕だけを伸ばすと、欠伸を一つをする。

なんとなく辺りを見回してみたらテレビのリモコンがあって、そういえばキミのオススメのドラマを観ていたんだったって思い出した。でも、キミがこの俳優さんがかっこいいんだって楽しそうに話をするからそれが面白くなくて、嫉妬してしまって。目を輝かせながらテレビの画面に映る俳優の人を眺めているキミを見ながら、僕にもこんな表情を向けてくれているのかなって考えているうちに寝てしまったんだ。

僕の肩にもたれかかって眠るキミ。すやすやと気持ち良さそうで、なんでなのかは知らないけど三角座りをしたまま眠っているのが面白い。
肩から伝わってくる体温が温かくて、時折動く髪が擽ったい。無防備に眠るキミの名前を呼べば、夢の中にいるはずのキミが貴澄くんって返事してくれたからそれが何故かとても嬉しかった。

「可愛いね」

眠っているキミにそう伝えても、分かっていたことだけどやっぱり反応はない。だから僕はもう一度呟いた。

「好きだよ」

すると僕にもたれかかったままのキミはぴくりと動いて僕の肩に顔を埋めた。その様子がとても可愛くて。

「寝顔、可愛いからこっそり写真撮ろうかな」

イタズラっぽく笑って携帯を掲げれば、ばっと顔を上げたキミと目が合った。

「あ、おはよう。ごめんね、僕寝ちゃって」
「……おは、よう。……じゃなくて、写真撮った?」

えー、なんのこと?と笑うと、起きてたこと気付いてたの?とキミの顔が赤く染まっていく。

「さぁ、どうだろうね。写真はまだ撮ってないけど、もし撮ったって言ったらどうするつもりだったの?」
「私もさっき貴澄の寝顔撮ったら良かったなって思って」
「なんで?」
「……それは、貴澄の寝顔が可愛かったから」

顔を逸らして答えるキミの耳も赤くて。愛おしいなと思って真っ赤な耳に唇を近づける。

「……何してるの?」
「キミは可愛いなって思ってさ。寝顔も、今の真っ赤な顔も、どっちも可愛いよ」

腕の中にキミを収めたら照れくさそうに俯き笑ったキミが、ありがとうと小さくなった。そんなキミが可愛くて、おでこにもう一つキスを落とした。



「あ、貴澄!ほら、あのドラマの俳優さん!」

ね!かっこいいでしょ!?と再び目を輝かせてるキミを見るのはやっぱり面白くない。

「……そうだね」

だけどカッコつけたい気持ちで呟いた言葉には思っていたよりも不満が混ざっていたらしく、振り向いたキミが眉を下げながら笑った。

「貴澄も嫉妬するんだね」
「そりゃするよ。キミのこと大好きだから」
「そっか」
「そうだよ」
「そんな貴澄も好きだよ」
「それなら良かった」

ふふっと笑ったキミにつられて僕も笑った。
そしてどちらからともなく目を閉じるとキスをした。キミは擽ったそうに笑ったけど、僕はそんなキミを愛おしく感じたんだ。


僕の腕の中にいるキミの頭越しにテレビを眺める。そこには相変わらずキミがかっこいいと言っていた人が出ているけど、先程よりは面白くないという思いは収まっていた。きっとこれが彼氏の特権、というものなのだろう。

そんな優越感に浸りながら、僕の彼女はこの子で、この子の彼氏は僕だから、と主張するかのようにキミを抱きしめる力を強めると、テレビ画面に見せつけた。



[ 22/24 ]

[*前] | [次#]

[目次]

[しおりを挟む]
[top]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -