つまるところ、喧嘩はしないに越したことはない (倉持洋一)


「……あー、くそ。可愛くねぇ」

くだらないことで洋一と口喧嘩をした。可愛くねぇと呟いた彼はボリボリと頭を掻くと、こちらに背中を向けてゲームを始めた。

たまに洋一と喧嘩をしてしまう。それは私が素直になれなくて意地を張ってしまうから。それなのに優しい彼は、さっきは悪かったと許してくれるからいつもそれに甘えてしまう。

私が素直になって彼に可愛いって思ってもらえるようにならないときっといつか愛想を尽かされてしまう。そんなことは分かっているけれど、変な恥ずかしさなんてものもあって中々素直にはなれない。

そんな自分に嫌気がさしたから気分を紛らわせるためにスマホを触る。ふと覗いたSNSは“エイプリルフール”という文字で溢れていた。今日の日付を確認して、そういえばエイプリルフールだったと思い出す。だけど喧嘩してしまっているのに嘘なんてついて更に怒らせたくはないし、そんなことよりも早く仲直りがしたい。

もう内容が頭に入ってきてはいないSNSをぼーっと眺めて、頭を悩ませ考える。仲直りするためにはどうしたらいいのか、素直になるためにはどうしたらいいのか。すると一つの考えが思い浮かんで彼の名前を呼ぶために口を開いた。

「洋一」
「……なんだよ」

ぶっきらぼうに呟いた彼はゲームをする手を止めてこちらに振り向いた。えっとね、と言葉に詰まっている私のことをじっと見ながら。

「あの、ね。……言いたいことがあって」
「どうした?」

彼の眉がぴくりと動く。そんな些細なことも見逃したくはなくて真っ直ぐと彼の顔を見たら眉間に皺が寄っていた。

「あのね、いつもごめんね」
「いやそれは俺だって悪いし。お前だけが謝ることじゃねぇだろ」
「そっか」
「そうだよ」

言いたいことは言えたからほっと安堵する。
すると二人の間に一瞬とも、とても長い時間ともとれる沈黙が訪れる。未だにじっとこちらを見ている洋一を、ゲームしないのかな? と思って見返せば、気まずそうに視線を逸らされた。

「なぁ、言いたいことってそれだけか?」
「そうだけど。なんで?」
「……いや、今日エイプリルフールだから仕返しにすげー嘘でもつかれるのかと思った」
「私が悪いんだしそんなことしないって」
「そうか? ……そうだな」

彼が力が抜けたように笑い出す。
本当はごめんの反対がありがとうだったらいいなと思って言ったんだということも伝えたかったはずなのに、彼の笑顔を見たら記憶の片隅へと消えてしまった。そんな彼の笑顔につられて私も笑えば、頭をぽんぽんと撫でられた。


「洋一、好きだよ」
「ヒャハハ。嫌いってことな」
「違う! これは本当!」
「どうだか」

楽しそうに笑った彼は、言葉にするからややこしいんだよなと呟くと顔を近づけてきて唇が触れた。それがなんだか照れくさくて洋一を見上げたら、俺がさっき言ったのは嘘だからなと頬を染めながら目を細めて笑っていた。


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