放課後に白河くんと喋るだけの話 (白河勝之)


その日は午前中の穏やかな秋晴れが夢だったように思えるくらいに夕方からは激しい雨が降ってきた、そんな一日だった。

日直だからといつもよりも少し早く家を出た私はその日に限って天気予報を見ていなくて。放課後にも残った日直の仕事をしていたら外はもう真っ暗で、仕事を終えて帰ろうとした頃には本降りだった。あいにく傘を持ってきていなかった私は親に迎えを頼むことにした。

『傘持ってきてなかった。迎えに来てもらうことって出来る?』
『いいけど、もうちょっと待てる?』

大丈夫、了解。……っと。

返事を送ったらなんとかなったことにほっとして、ふうっと息を吐く。みんなは雨が降り出す前にと急いで帰っていったから放課後の教室には私一人だけしかいなくて、吐いた息はすぐに広い教室へと消えていく。

どうやって時間を潰そうかとあてもなくスマホを触っていたらふと思い出したことがある。だからすぐさまカバンからイヤホンを取り出すとは耳に入れる。そしてそのままスマホで再生ボタンを押せばそこからは私だけの世界、ラジオの世界だ。

聞き馴染みのある音楽。それから始まる軽快な芸人さんの喋り。いわゆる深夜ラジオというものを聞くことが私の密かな楽しみで。高校受験の勉強中に出会って以来こうして度々聞いている。昨夜はちょうど寝てしまったけれど、今は聞き逃し機能があるからいつでもどこでも聞けて本当に便利だ。そんなことを思いながらイヤホンから聞こえる音に耳をすますと相変わらず雨が降っている窓の外へと目を向ける。退屈だった待ち時間も素敵な時間に変わるのだからラジオってすごい、なんて思いながら。


――あ、この歌知ってる。前から気になってたやつだ。うーん、それにしてもさっきの話は面白かったな。

ラジオを聞きながら思わず、ふふっと笑ったらいつの間にか隣に人がいたらしく体がビクッと飛び上がる。それでもなんとか落ち着くと、隣の席の白河くんが自分の席に座って何故か私の方をじっと見ていてるようだった。するとそんな白河くんと目が合ったからどこか気まずくて少し視線を逸らす。それから一時停止ボタンを押してからイヤホンを外した。

「し、白河くんいたんだ?」
「少し前からな」

雨が窓に打ち付ける音が響く教室で、あははっと今更もう一度笑ってみても声はすぐに打ち消されるからやっぱり気まずくて。一人で笑っているところを見られて恥ずかしいから当たり障りのない話題を考えることだけで頭がいっぱいで。だから白河くんが教室にいる理由も、それから私の向かいに座っている理由も全く考えなんてしなかった。

「あの、何してるの?」
「室内練習場が使えないから時間潰し」
「そっか、野球部……! 雨だもんね」
「あぁ。だから満員なんだよ、中は」

淡々と答えていく白河くんは、今まで休み時間なんかに話していた時よりも心做しか距離が近くて。ふっと緩んだ眉と瞳に捕らえられてしまって照れくさい。

「そ、そうなんだ」

そんな瞳に捕らえられたからなのか、雨は嫌いじゃないけど困る時もあるよね、とか言いたいことはあったはずなのに顔が熱くて喉の奥で言葉が突っかえる。それでもなんとか一言だけ答えたけれどやっぱり白河くんと目が合うと照れくさくて。それなのに逃げられないから厄介だ。

「お前は何してたの」
「私はラジオ、聞いてた」

何故だかカタコトでそう言えば、白河くんの口角が上がる。あ……、笑ったと思うと同時に胸が高鳴ったのが分かる。

「俺もラジオ好きだよ」
「……うん。私も」
「さっき何聞いてたんだ?」
「あ、昨日の。深夜ラジオ」
「へー、どれ?」
「これ」

スマホの画面を覗き込んだら白河くんと顔が近くて思わず体を仰け反らす。だけど白河くんは全く気にせずに笑うんだ。


「それいいよな。俺も好き。それから、なまえがラジオ好きだって知ってたよ。ラジオを聞いてると耳が良くなるのか友達と話してたのが聞こえてきたから」


私もラジオ聞いてるのにそんなに耳は良くないはずだよ、って思うのに、白河くんの笑顔を見ていたらそんなことはもうどうでもよくて。ずっと見惚れていたら雨の音すらも耳に入って来なくなっていた。それでも白河くんの声だけは聞き逃さない気がする、そんな不確かな自信を感じたある日の出来事。




[ 2/14 ]

[*前] | [次#]

[目次]

[しおりを挟む]
[top]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -