可愛い人 (倉持洋一)


可愛いものに、かっこいいアイドル。クリームがたっぷり乗った飲み物に、キラキラのスイーツ。
女の子は可愛いものにかっこいいものが大好きで。それを友達と一緒に分け合って笑い合って。楽しいけれど頑張りすぎるとたまに疲れてしまう。

だけどそれが可愛い女の子なんだ。

今日も背伸びをして頑張るのは、好きな人に少しでも可愛いと思って欲しいから。そんな私も可愛い女の子の一人になれているのだろうか。

**

ずっと気になっていたクラスメイトの倉持と付き合うことになった。
いつもは冗談ばかり言い合っていた倉持と放課後二人だけの教室でなんとなく話が途切れてしまって沈黙が続いてしまった後に告白された。好きだって。
そう言われて顔を上げると倉持の顔が赤かったのを覚えてる。じっと見てたら「……なんだよ」って居心地が悪そうに視線を逸らされてしまったけれど、あれは夕日に照らされたからだけではないはずだ。
なんて、今になってまたそんなことを思い出しては顔が熱くなってしまうのは、初めてのデートに緊張をしているせいなのかもしれない。
スカートを履いて、髪も巻いて。どこからどう見ても浮かれている自分を感じては恥ずかしくなって。ソワソワしながら待ち合わせ場所に行くと倉持が先に待っていた。

「ごめん。待たせた……!」
「……おー。いや、待ってねぇよ。まだ待ち合わせ前だろ」

小走りで駆け寄ると倉持の顔が少しだけ動いて視線に捕えられる。倉持の私服ってこんな感じなんだとジロジロと見てしまえば、ふいっと顔を逸らされてしまって。照れくさそうに首筋を掻いた倉持につられて私も顔を逸らす。

周りはガヤガヤとうるさいはずなのに不思議と周りの音はほとんど耳には入って来なくて、どこか遠くの方でだけ音がしている。倉持から顔を逸らしたまま動くことも出来なくて、服の袖を伸ばしてみては手の甲まで引っ張ってみる。そんなことを繰り返していたら不意に上から声が降ってきた。

「ここでこうしてても時間がもったいないから行くか」

息を吐くと共にそう言った倉持の眉は下がっていて、どこか困ったように笑っていた。
もしかして倉持も緊張してるのかなとは思うけれど、そんなことを聞いたらたまに御幸くんへと飛んでいるような大声が私にも飛んでくるかもしれないから聞けない。ひとまず私の緊張が解けるまでは、なんてことをふと思ってみると少し肩の力が抜けた。


お互いにぎこちない会話をしながら妙に慣れたように道筋を歩いていく倉持についていくと、着いた所はゲームセンターだった。倉持がゲームを好きなのはよく知っている。だけどまさか初デートの行き先がゲームセンターだとは思ってもいなくて気が抜ける。思わず、ふふっと笑ってしまうと顔を歪ませた倉持と目が合った。

「……やっぱゲーセン、じゃなかった……よな?」

不安そうに恐る恐る聞いてくる倉持がおかしくて。どんなオシャレなお店に行くのだろうと気を張っていたからまたどうにも笑ってしまう。あははと声を上げると倉持の顔が赤く染まった。

「……お前もゲーム、好きだろ」
「うん、好きだよ」
「でもやっぱり……ケーキ、とかが良かったか?」
「ううん、そんなことないよ」
「じゃあなんか、甘い飲み物か?」
「ううん、そうじゃなくて」

ぽつりぽつりと片言みたいに呟く倉持は、いったいどれだけ私のことを考えてくれているのだろうか。そう思うと嬉しくて愛おしくてやっぱり頬が緩む。

「倉持って本当に私のことが好きなんだなって思ったの」
「……はぁ? んだよ、それ」

また更に赤くなった顔がやっぱり愛おしくて。照れくさそうに視線を逸らして頭を掻いている仕草が大好きで。

「ケーキも甘い飲み物も嫌いではないけど、それを食べたり飲んだりする分のお金で倉持とゲームが出来て、倉持と同じ気持ちになれる方が私は嬉しいし楽しいよ。だから私のことをよく分かってるなぁって。というかケーキも甘い飲み物も実はそこまで好きじゃないし」
「……お前いつもはそんなこと言ってないだろ? 友達と行くんだって楽しそうだしな」
「まあ友達とお喋りするのは楽しいからね。でも実は甘いもの苦手」
「お前な、無理は良くないだろ」
「無理してまでは食べたりしてないよ」
「ならいいけどよ」

怪訝そうに眉をひそめる倉持に、本当だよと笑いかけると倉持の表情も緩んだ。

「それに倉持がオシャレなお店を選ばなくて良かったと思って」
「俺のことバカにしてんだろ、それ」
「そんなつもりはないんだけど。ただ倉持が倉持で良かったなって」

頬が緩んだままそう言えば、楽しそうに笑った倉持と目が合って。


「ヒャハハ、そりゃまあ俺はお前のことが好きだからな。お前の好きなものもお見通しなんだよ」

口角を上げながら倉持の両手が近づいてきたから、なんとなく恥ずかしくなってぎゅっと目を瞑ると頭をわしゃわしゃと撫でられる。その心地よい感覚に頭を預ければ少ししてから満足したのか倉持が離れていった。

「……いきなりそういうこと言うのはずるい」

チラリと見上げると眉間に皺を寄せた倉持に睨まれる。

「みょうじに隙があるからだろ」
「え〜そんなこと言う? でも私だって……」
「私だって? なんだよ?」

にっと笑って楽しそうな倉持への想いなんて決まっているのに言えなくて。だけど答えを分かっているだろう倉持の耳がもうずっと赤いことを私は知っている。

「私だって早くゲームしたいなと思って!」
「ヒャハハ、本当かよ」

さっきまでの緊張はどこへやら。初デートであることももう忘れながら二人でそんなやり取りをしつつ、お目当てのゲーム機を物色する。百円で倉持と一緒の思い出が増えるのだからゲームセンターはいいものだ。


──それにしてもどうやらあの時の倉持の耳が赤いのはやっぱり夕日のせいではなかったようだ。あ、それと倉持も緊張していると分かったけれど、大声は飛んでこなかったな。そんなことを思っていたら隣から倉持の楽しそうな笑い声が響いた。


可愛いものも甘いものもそれほど好きではない私は、倉持の目にちゃんと可愛い女の子として映っているのだろうか、なんて思うことは杞憂だったようだ。




[ 3/14 ]

[*前] | [次#]

[目次]

[しおりを挟む]
[top]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -