一生を夢想する 「くお"ぉらああああ!!!!クソガキがあああ!!」 「やっべ」 朝から晩まで騒がしいヴァリアーの大体の原因は、最年少であるベルフェゴールの勝手気ままな行動と怒声を散らすスクアーロによるものであることが多かった。この日も例外ではなく、おいかけっこの末に戦闘、そして最後は必ずスクアーロが殴られて終わる。しかし殴るのはベルフェゴールではない。ぱりん、とまた音が鳴りベルフェゴールはスクアーロの方を見た。銀の髪に赤い液体とガラスの破片が散らばっている。ベルフェゴールはスクアーロがそちらに気を向けたことを見計らって、端にいるマーモンのところまでそそくさと移動した。 「う"お"ぉい、クソボス!何しやがる!!」 「うるせぇ」 「あ"あ!?ならてめぇがあのガキどうにかしろぉ!ボスさんよぉ!!」 「……なあ、マーモン。スクってなんであんなバカなんだろ」 「ム。馬鹿だからじゃない?」 「しし、知ってるー」 ソファーからマーモンを持ち上げて、自分の腕の中へおさめる。そうして開いたその場所にベルフェゴール自身が座り、マーモンを膝の上に乗せた。 「あー、うっせぇなぁ」 「今更だろう。彼のアイデンティティーだよ」 「あれがまだ半音量だったら可愛いげあんのに」 「どうかな。どのみち可愛いげなんてもの、彼にはないかもしれないよ」 「まーね。あーあ、地雷ふむからやられんのにさ。…あいつだってそこまでバカじゃないだろーに」 「ドM?」と首を 「……でも、スクアーロもわかってやってるんだろうけどね」 「え、やっぱM?」 「知らないよ。……けど、少なくとも必死なんだろうさ」 「八年だからね」とマーモンは歪めて笑う。八年。ヴァリアー凍結の間、やはりボンゴレの下で任務をこなしていた自分たち。ザンザスが不在のヴァリアーは混沌として、行き場のない苛立ちや葛藤。肩身の狭さ。周囲の目。色々なものが渦巻いていた。自由にできないもどかしさに暴れたことのあるベルフェゴールは苦い顔をして、うん、としょげた声を出す。 「使うあてのない駒を置いておくほど、あいつらも優しくはなかったなー」 「大人なんて大半はそんな生き物だろう。どれだけ慈愛ぶったところで所詮はマフィアさ」 「そーだな。人を殺せなんて任務出せんだもんな。でも、血の流れない平和な取り引きばっかでつまんなかった。凍結って、暗殺部隊の俺らに殺すななんてさ。…そうやって俺らの精神喰って、喜んで慈悲ぶってたやつらだもんな」 「……飼い殺しを選んだのは君達だけどね」 ぱりん、とまた遠くでガラスの割れる音が響く。散々殴られるから馬鹿になったのかもしれないな、なんて考えながらベルフェゴールはマーモンの頭から顎を退けた。 「いつ叶うかなんてわからないまま待ち続けたんだ。彼にとってそれが永遠でなかっただけ幸いだね」 「ほんとほんと。あのままだったら俺も頭パーンしてた」 ザンザスが戻ってくる保証なんてなかった。それでもスクアーロは待つと決めた。きっと戻ってくるとスクアーロが強く言うものだから、なんとなくそんな気になって、周りもついて行ってしまった。そんな終わりの知れない時間の中で八年なんて短い方だった、と今だから言える。 「服従……とは違うね。やっぱり忠誠かな。なんにせよ愛とか馬鹿げた話じゃないといいけどね」 「愛ィ?スクがボスにLOVEなわけ?なにそれ、きっも」 「愛が恋愛にしか結びつかないお子様にはわからない話さ」 「うーわ、調子乗んな赤ん坊」 ぐりぐりと頭に顎を押しつけられながら、マーモンはザンザスに抗議するスクアーロの姿を見た。あの時よりもいい顔をしているものだ。 「望んだことが夢でおきるとがっかりするだろ。でもいざ現実になればこれも夢なんじゃないかって不安になる」 「だから?」 「スクアーロは今、見極めてるんじゃないかって話」 「ふーん?」とよくわからないといった仕草でベルフェゴールは顎をまた頭から離し、マーモンの頭をよしよしと撫でた。 「お前もいろいろ考えてんだなー」 「ベルはもっとよく考えるべきだと思うよ」 「あ?なんで」 「後ろを見ればわかることさ」 くるりと後ろを振り返って、ベルフェゴールは冷や汗を一つ吹き出した。そこに立っていたのは紛れもないスクアーロ。いつの間にやらボスとの喧嘩は終わっていたらしい。 「随分楽しそうだなあ、ベルフェゴール?」 「あ、れー?先輩いつの間に……」 「ベルの足止め料は後でいいよ」 「うわマーモン!スクアーロとグルかよ!?」 「じゃあね」 マーモンがベルフェゴールの膝から退いたのを合図に、またもやおいかけっこが始まった。響く怒号と少し焦った笑い声が遠くなっていくことはなく、なぜかこの部屋だけを使ったおいかけっこ。きっとまたすぐにボスからお怒りがあるだろうな、と思いながら、マーモンは改めてソファーに座った。 「君は一生、安心できはしないんだろうね」 スクアーロは一生見極め続けるのだろう。ザンザスのいる今が夢でないのだと。スクアーロは一生分の永い夢を見続ける。そうして死ぬとき目が覚めて、ああ、現実だったんだなと気づくのだ。マーモンはしょうがない二人に薄く笑みをこぼした。もしも夢から覚めたときには、皆でスタンディングオベーションでもくれてやればいい。 1/1ページ 目次 / TopPage |