メゾン・ド・章樫に戻ってきたのは太陽が空高く昇った12時48分頃、車から降りてラウンジへ向かえばそこには夏目さんと渡狸さん以外の住人全員が集まっていた。

「御狐神!あんた何考えてるの!?」

雪小路さんはこちらを見るなり眉間に皺を刻み睨み付けてくる。今にも殴り掛かりそうな勢いの彼女を隣に居た髏々宮さんが宥めつつ、反ノ塚さんが事情を説明してくれた。

真夜中になっても帰って来ないからもしかしたら妖怪に襲われたんじゃないのかと心配しラウンジで夜を明かしたらしい。よく見れば目の下に隈のようなものが出来ている。

「…ご心配をおかけして申し訳ありません。名前様が行かれそうなところを片っ端から探していたので、着信にも気付かず…。」

気付かなかったわけではない、元々携帯の電源は入っていなかったし出る気もなかった。二人だけの時間を邪魔されたくなくて自分の手で電源を落としていたのだ。眠る前に電源を入れたのは「怪しまれないよう、ちゃんと明日は屋敷に戻るように」という意味を込めてのこと。

申し訳ないという表情を作って謝罪の言葉を述べれば、次からは気を付けるようにと忠告された。

「で、何か役に立ちそうな情報とか手に入ったのか?」
「…いえ」
「そっか……まぁ、一日目なんてそんなもんだよな…」
「…ところで、夏目さんと渡狸さんのお姿が見えないのですが…」
「ああ、それがさ…まぁ、当然っちゃ当然なんだけど…寝込んでるんだよね、今。」
「……渡狸は夏目さんの、看病…」
「…ということは…寝込んでいるのは夏目さん、ですか?」
「…無理もないわ。だって、婚約者なんだもの…心配じゃない方が可笑しい。」

あの日からずっと一歩も部屋の外に出ようとしない、反ノ塚さんは心配そうに天井を見上げそう言った。…彼が、寝込んでいる?確かに連続で能力を使うと激しく疲労してしまうと以前言っていたけれど、


――人の婚約者連れ去っておいてそれはないんじゃない?


彼はもう分かっているはずだ。犯人が自分だということも、名前様が今誰と居るのかも…今は預けておくとまで言ったのだ、それなのにそこまで能力を使う必要があるのだろうか?

(…いや、)

きっと彼は楽しんでいるのだ、今の状況を。彼の能力は未来を視ることも出来る、それが視えていても何も行動を起こさずにいるのはきっとどんなに時間が経っても、こちらがどんな行動を起こしても、彼女が自分の元へと戻ってくると分かっているから。こちらがどういう行動をとるのか、それを視て、考え、楽しんでいるのだ。

「御狐神さん…?どうした?」
「…いえ、何でもありません。」

歪みそうになった顔に急いで憂いの表情を張り付けて

「一刻も早く、名前様を見つけ出さねばなりませんね」

そんな思ってもいない言葉を吐きだした。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -