意識が覚醒していくにつれ視界がクリアになっていく、窓も時計もないから今が何時なのかを知る術はない。とにかく体を起こそうと腕を動かしてハッとする、何かに締め付けられている感覚にまさかとシーツの隙間から中を覗き込めば腕が巻き付いていた
(……ちょっと、嘘でしょ…)
溜息を吐きたくなるのを我慢して肩越しに後ろを見れば銀色の髪が視界に入った。…つまり、私は彼に後ろから抱きしめられているということで
「んっ、」
ガッチリと抱きしめられているせいで体を動かすことも出来ない。御狐神さんが起きるまで待つしかないのか…なんて考えていたら携帯のバイブ音が聞こえてきた。いったいどこから…?
(シーツの中から…?)
チカチカと光が点滅する、場所は彼のズボンのポケットで少しだけ携帯が顔を出していた。…このまま手を下へ伸ばせば届くかもしれない、携帯さえあれば外部と連絡が取れるし助けを呼ぶことも出来る。彼を起こさないように気を付けながらそっと手を下へ伸ばした
(あと、ちょっと…)
指をピンッと伸ばせば爪が携帯の角に当たった、このままどこかに引っかければ取れるかも…今度はクレーンゲームのアームのように人差し指と親指で角に爪を引っかけた。するりと彼のポケットから携帯が抜ける
(とれた…!)
急いで携帯を開けば画面には「雪小路野ばら」という文字が。よかった、野ばらさんだ!
「いけませんよ、勝手に人の携帯を取るなんて。」
電話に出ようとボタンに指を伸ばしたところで後ろから笑みを含んだ声がした。
手からするりと携帯が抜き取られる、電話を切るのかと思いきやボタンを押して電話の相手である野ばらさんに「はい、御狐神です」と返事を返した。
「っ、野ばらさ……んぐっ!!」
大きな声を出せば聞こえるかも、そう思って口を開いたけど彼の右手が私の口を塞いだ。手を剥がそうと暴れるけど彼にとってはそんなもの抵抗の内にも入ってないらしく淡々と会話を続けている。「今運転中なので後でこちらから折り返し電話をさせていただきます」、そう言って電話を切った。
にこりと微笑む彼の顔が視界に入って背筋に冷たいものが走る、大人しくなった私にもう一度微笑みかけて口を押えていた手をそっと退けて
「逃げようとしても無駄ですよ、そんな希望は捨ててください。僕は貴方を逃がすつもりは…手放すつもりはありませんから。」
残酷な言葉を吐きだした。