お湯が傷口を濡らす度にチクリとした痛みが走る。今は入浴中、さすがに中まで着いてくることはなかったけど逃げないように彼はドアの前で待っていると言った。きっとあの白いドアの向こうには今までと同じように彼が立っているのだろう。

あの後、彼は皿に乗った料理を全部食べ終えるまでずっと私を見つめていた。視線が嫌で何度か顔を逸らしたけど意味が通じなかったのか視線が逸れることはなくとても居心地の悪い時間だった。

「……私、残夏以外と…キス、しちゃったんだ……」

まだ残っている彼の唇と舌の感触、何度も手で擦っても口を濯いでも消えることはなかった。好きな人以外とキスをした、合意ではないし突然のことといってもやっぱりショックは大きい。

「っ、」

今頬を伝っているのは涙か、それともシャワーから流れ出ているお湯なのか……そっと目を閉じた。


* * *



音を立てないよう気を付けながら食器を洗い、浴室から戻れば名前様はすやすやと寝息を立て眠っていた。そっとベッドに腰掛けて艶のある黒髪に指を通す、さらさらとした触り心地の良い髪は癖になりそうだ

「……泣かれたのですね」

少しだけ赤くなっている目元、きっと僕がシャワーを浴びている間涙を流していたのだろう、名前様が浴室から出てきた時はここまで赤くなってはいなかったから。

「………そんなに彼のことが好きなのですか」

涙を流すほど彼女は彼のことが好きなのだと現実を突き付けられたようで胸が絞め付けられた。




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