「名前様、夕食が出来ましたよ。」
まだ湯気の立っている料理の乗ったトレイを手に御狐神さんはキッチンから戻ってきた。いらないと背を向ければ困ったような声でもう一度名前を呼ばれたけど振り向きはしなかった。
「…名前様、お昼から何も食べていらっしゃらないでしょう?」
「お腹空いてませんから」
「それでは体に良くありません、一口だけでもいいので食べていただけませんか?」
「いりません」
そんな気分じゃないし、何を言われたって食欲がわいてくる気もしない。背を向けたまま振り返ろうとしない私をどう思ったのか、御狐神さんも私と同じように黙ってベッド横のサイドテーブルにトレイを置く音がした。諦めたのだろうか、なんて思っていると急に体を引っ張られた
「んぅっ…?!」
御狐神さんの顔が目の前にあると思ったらそのまま強引に口づけられた、離してと胸板を叩くけど離してくれる気配はない。ぬるりとした何かが咥内に入って、その後に液体が隙間から入ってくる。どんどん入ってくる液体にどうしたらいいのか分からなくて固まっているとキュッと鼻を摘ままれた
「んっ、んんーっ!」
飲み込めと言っているのだろう、口も鼻も塞がれて苦しくなった私は仕方なくそれを喉に流し込んだ。それと同時に解放される鼻と口、急に空気が入ってきて咳き込んでしまった。
「けほっ、けほっ……なに、するんですか…!!」
「申し訳ありません。ですが、お食べにならないというのでしたらこうする方法以外僕には思いつかなかったので」
「だからって、」
「ご自分でお食べになりますか?それとも、もう一度僕が食べさせましょうか?」
どうやら御狐神さんは本気らしい、彼の手がまたスープ皿に伸びるのが見えて私は急いで起きあがって彼の手を掴んだ。
「じ、自分で食べます…!」
「そうですか、安心しました。」
食欲なんてない、寧ろ今のでもっと無くなった。でも、またあんな風にキスされて食べさせられるなんて嫌で受け取った食事を無理矢理胃の中へ流し込んでいく
そんな私の姿を彼はどこか満足そうな顔でずっと眺めていた。