名前たん(夏目からの呼ばれ方)が消えた。何の言葉もなく部屋は引き払われ、主を失った部屋は彼女が入居する前と同じ殺風景で物寂しい空間になっている。
「…名前ちゃんが消えたって、嘘でしょ、ねぇっ…!!」
「落ち着けよ」
「落ち着いてられるわけないじゃないっ、だって、私たちに何も言わずに出ていくなんて…あの子がするわけないわっ…!」
どう考えても可笑しいわよ!と野ばらちゃんは涙で潤んだ目をきっと細めて空っぽになってしまった空間を睨みつけた。確かに可笑しい、それはここに居る誰もが思っていること
「っ、御狐神、あんた何か知らないの?」
「……残念ながら」
ただ、ボクと一人を除いては。
「とにかく、僕は捜索を続けます。何か情報が入り次第皆様にお伝えします」
「私たちも手伝うわっ」
「いえ、これは僕の責任です。名前様のSSでありながら全くその予兆に気付かなかった…挽回する機会が欲しいのです」
「っ、今はそんなこと言ってる場合じゃ「野ばら姐さん」……分かったわ。でも、情報が入ったらすぐに教えること!これ破ったらただじゃおかないからね!」
「ありがとうございます。」
「そーたん」
「…夏目さん」
皆が戻って行ったあと、ボクは部屋に戻ろうとしていたそーたんに声をかけた。声をかけられると分かっていたのか、特に驚くこともなく彼は「何か用ですか」と聞き返しくる。
「用って言えば用なのかなー?」
「…大事な用件でないのなら、後でもよろしいですか?今から情報を仕入れに行く準備をしたいので」
「そーたんさぁ、」
「情報を仕入れる気なんてないでしょ。」
ボクの声が響いて、そーたんの纏う空気が少しだけ変わった。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目が細められたけどすぐ元に戻ってボクを捉える。
「何を仰っているのですか」
「嘘つかなくてもいいよ、ボクにはぜーんぶお見通しさ。名前たん(夏目からの呼ばれ方)を愛しすぎたあまり感情をコントロール出来ず連れ去っちゃったんでしょ?」
「……仰っている意味がよく分からないのですが」
「人の婚約者連れ去っておいてそれはないんじゃない?」
そーたんの表情は変わらない、このまま話を続けても無意味だと分かったボクはため息を吐いてくるりと背を向けた。
「今は預けておいてあげる、でもね、忘れないで」
「彼女が心から愛して必要としているのは君じゃなくてボクだよ。」