ベッドで膝を抱えていたら遠くの方で足音がした。ああ、きっと御狐神さんが帰って来たんだ…膝にくっつけていた顔を上げて唯一の出入り口である一番奥のドアに目をやればゆっくりとドアノブが回るのが見えた。…一人が好きというわけではないけど、今からまた彼と二人きりになるのかと思うと正直胃が痛い。
「ただいま戻りました。」
食材が入っているのだろう、左手に大きなスーパーの袋をぶら下げて御狐神さんは部屋に入って来た。お帰りなんて言う気も、声をかける気もないけど彼の纏う雰囲気がいつもと違ってつい口を開いてしまった。
「……何か、あったんですか」
言葉をかけられるなんて思ってなかったのか彼は目を丸くして足を止めた。でもすぐに笑顔と共に「なんでもありませんよ」という言葉を返してきた。
「今からお作りしますね、今日は果物も買ってきましたから食後に食べましょう。」
そう言ってスーツを脱ぐこともなく彼はキッチンへと消えて行った。
* * *
(…胃が痛い)
痛みによって朦朧としていた意識が覚醒していく。…なんか、気持ち悪い…胃から何かがせり上がってくるような感覚に急いで口元を手で覆った。一時すれば治まるかななんて思っていたけど一向に治まる気配はなくて、私を抱き締めて眠っている彼の服の袖を引っ張った。
「…名前様…?どうかされましたか…?」
眠そうな目をした彼に「トイレに行きたい」と言えばすぐに足枷を外してくれた。急いでトイレに駆け込んで便座の前にしゃがみ込んだけど気持ちが悪いだけで今すぐ吐くという感じではない、それが逆に辛いのだけれど。
「っ、頭痛い…」
急に体を動かしたせいか今度は頭痛までしてきた。ズキズキという普通の頭痛とは違って、ぐるぐるとまるで脳内を掻き回されているような感覚が一層吐き気を強める。終いには目も開けていられなくなってその場に倒れ込んだ。
「は、っ…」
体を起こしたくても力を入れようとしただけで頭に激痛が走る、声を出したくても吐き気が込み上げて口を開けることすら出来ない。歯を食いしばって耐えるけど痛みが弱まることも治まることもなく
プツリと、目の前が真っ暗になった。