静かな部屋に違和感を抱いてしまうのはここ最近うざったいくらいに引っ付いてくる渡狸のせいだろうか。秒針の音しかしない空間で、ボクはそんなことを思った。

『なにか食いたいものとかないのか?なんでもいいから胃に入れた方がいいって』
『…じゃあ、アイス』
『アイス?』
『うん。アイス、食べたい』
『っ、分かった!』

食べたいだなんて思っていなかったけど、しつこいくらい何か食べたいものはないのかと聞いてくる渡狸を黙らせるにはそれしかなかった。目をきらきらと輝かせた彼に思わず吹き出しそうになったけどそこは我慢、だってボクは今病人なんだから。

婚約者の失踪、能力の連続使用による疲労、心労と過労が重なって床に伏せてるっていう設定だけど本当は能力なんて使ってないし心配もしていない。そんなもの使わなくたって誰が彼女を連れ去りどうしているのかなんてすぐに分かるし、それにこれからどうなるかなんていうのももう分かっているから。

「それにしても一体どこのコンビニまで買いに行ってるんだろうね渡狸は……あ、そーたんだ」

窓の外に目をやれば丁度車に乗り込むそーたんの姿が見えた。情報収集とかいってこれから彼女の所へ戻るのだろう。結界が張ってあるのか彼女がいる正確な場所を突き止めることは出来ないけど、場所的にはそんなに離れていないはず。木を隠すなら森に隠せっていう言葉があるように、人を隠すなら人の中…街から離れたところだと逆に目立つってね。

そういえば、彼はボクが寝込んでいるということを皆から聞いたのだろうか…まぁ、聞いてもそれが嘘だということは分かっているんだろうけど。

「あ、目が合った」

じっと見つめていたせいなのか、それともたまたまなのか、顔を上げたそーたんと視線が絡み合う。見えるかどうか分からないけど、にこりと笑みを浮かべて手を振ったら睨まれた気がした。手を振り返すことも頭をさげることもせず車に乗り込む彼はまるで「貴方の視た未来通りにはいきません」とでも言っているようで気付いたらボクは肩を震わせて笑っていた。

「ふふっ、あははっ…」

無駄だよ、そーたん。運命はそう簡単に変わることはないよ。そーたんがどんなに頑張ったところで、なんの意味もないんだ。


「精々楽しませてね。このゲームが終わりを迎えて名前がボクの所に戻ってくるまで、さ」





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