夜の7時、使ったまな板や包丁を洗っているとチャイムが鳴った。たぶん双熾だ。手についていた泡を水で流し玄関へ向かう、ドアを開けたそこに居たのはやっぱり彼だった。

部屋に上がるように言って私は一旦キッチンへ戻る、ポン酢とお皿を手にリビングへ向かえば丁度彼がジャケットを脱いでいた。

「美味しそうですね」
「でしょー?今日は奮発してタラバガニにしたからね」
「でも、何故急に…?」
「最近忙しくて会話らしい会話も出来てなかったでしょ?だから、この前看病してくれたお礼も兼ねて」
「そんな、お礼されるようなことでは…でも、嬉しいです。こうやって名前さんと一緒に居られることが。」

少し恥ずかしそうに笑って彼は自分の腕に私を閉じ込める、息が首筋に当たってくすぐったいと身を捩ればそれすらも出来ないようきつく抱きしめられた。

「もーっ、これじゃご飯食べられないでしょ」
「もう少しだけ、」
「…仕方ないなぁ」

ガスコンロの火を弱めれば少しだけ鍋が静かになる、ぎゅうっと私の体を抱きしめている腕に手を重ねて彼の胸に体を預けたら首筋に当たっている彼の髪からふわりとシャンプーの香りがした。こうやって抱きしめられるのも久しぶりだなぁ…。

静かだった鍋がまたぐつぐつと音を立てはじめる、早く食べなきゃ美味しくなくなると頭では思っているのに彼から離れたくないと思っている自分もいて、そっとコンロの火を消した。





好きな人と一緒に居られる、そんな時間があることを幸せというのだろう。きっとこれからもずっとその幸せの時間は続いていく、何年も、何十年先も―――

そう、思っていたのに。

 





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -