(…いい匂いがする。)
重たい瞼を押し上げるとそこに彼の姿はなくて、代わりに愛らしい顔をした狐のぬいぐるみがあった。…あれ、双熾は……?
彼にそっくりな(彼自身は認めてないけど)そのぬいぐるみをぼーっと眺めているとカチャリとキッチンから音がした。
「目が覚めましたか?」
「…双熾」
いい匂いの正体はこれだったのか…彼の持っているスープ皿からふわりと食欲を誘う美味しそうな匂いが漂ってくる、匂いを嗅いだ途端胃の辺りがきゅうっとなって朝から何も食べていなかったことに気付いた。
傷口が開かないよう気を付けながらゆっくり上体を起こして皿を受け取ろうと手を伸ばしたんだけど…、
「…なんで遠ざけるの?」
ひょいっと私の手をかわしベッドに腰掛けた。
「言ったでしょう?ちゃんと看病します、と」
「……なんか嫌な予感が…」
にっこりと効果音がつきそうなくらいの笑顔に、じわりと嫌な汗が背中を伝った。
「僕が食べさせて差し上げます」
「やっぱりか…!」
「名前さんは病人なんですから、大人しく僕にお世話されてください。」
はい、あーん…なんて普段は言わないようなセリフまで口にしてスープを掬ったスプーンを私の方に向けてくる
「いや、この歳であーんって…」
「大丈夫です、名前さんなら中学生でもいけます」
「明らかに胸のこと言ってるよね?っていうか見たよね今、確かに中学ぐらいから成長していないけれども!って、そういう問題じゃなくて…!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ、ここには僕と名前さん以外居ませんから」
「……」
「ね?」
だから、と笑顔でスプーンを差し出されてしまえばもう何も言えなくて仕方なく口を開けた。食べている所をこうやってじっと見つめられたりするのはあまり好きではない、普通の熱とは違う何かが頬を熱くする
「ああ…大人しくお世話される名前さんも可愛らしい…」
「か、可愛いとか言わないでよっ」
「恥ずかしがるところも可愛らしいですよ」
「っ、はぁ……もういい、聞き流した方がいいような気がしてきた…」
そう言えば彼は小さく笑ってまたスプーンを差し出してきた。
「後で歯を磨いて差し上げますね。あ、お風呂も一緒に入りましょ「遠慮します!」