「うー……怠い…」

一応消毒はしたけど、傷口から細菌でも入ったのだろうか…夜中ぐらいから妙に体が熱を持って頭がぼーっとし始めた。なんでだろう、視点が上手く定まんないや…。

「大丈夫ですか?」
「…ん、」
「……熱いですね」

冷たい手が額に触れる、気持ち良くて目を細めていたらギシリとベッドのスプリングが軋んで少し傾いた。ふわりと優しい柔軟剤の香りが鼻腔を掠める。ああ、安心するなぁ…この匂い…

「やはり病院に行った方が良いのでは…」
「…やだ、行きたくない」
「…名前さん」
「雨に濡れたからだもん、別に何かの病気とかじゃないし。」

そう言えば彼は困ったようにため息を吐いて汗で湿った私の髪を撫でた

「分かりました。では、熱が下がるまで僕がちゃんと看病します」
「…凜々蝶ちゃんはいいの?SSなんでしょ?」
「凜々蝶様についていろと言われたので問題ありません」

…なんか凜々蝶ちゃんに申し訳ないなぁ、熱が下がって動いても痛くなくなったら果物でも持って会いに行こう。カチ、カチ、と室内に響く秒針の音に耳を傾けているとまたスプリングの軋む音がして目を開けたら、視界いっぱいに彼の胸板が広がっていた。

「…私、今汗臭いよ?うわってなるよ?引くよ?」
「そんなことはありません。寧ろ、」
「寧ろ…?」
「そそられます」
「…今のは聞かなかったことにする」
「まぁ、それは半分冗談として…あまり心配させないでください、貴方にもしものことがあったら…」
「……ごめん、これからは気を付けるね」

約束と、指切りをする代わりにそっと手を握れば彼のもう片方の手に私の左手が包まれた。

「約束ですよ?これからは絶対無理はしないと、何かあればすぐに相談すると約束してください」
「ん、わかった。」
「…少し、休んでください。熱を下げるには体を休ませて栄養を取るのが一番ですから」
「……私が眠るまで、傍にいてくれる?」

病気の時は人肌が恋しくなるっていうのをよく聞くけど、あれって本当だったんだなぁ。彼が離れていくことが寂しく感じて、気付いたらそんなことを言っていた。いくら凜々蝶ちゃんが私についているようにと言っても、彼にもしなきゃいけない事があるのに…迷惑がられてないか不安を抱きつつ彼の顔を見たら

「…勿論です。」

どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。何でそんなに嬉しそうなの?と聞いたけど、彼は「さぁ、何故でしょう?」と笑って教えてはくれなかった。…まぁ、いっか。





だって、貴女が僕を必要とし、甘えてくれるのが嬉しいなんて、言えるはずがないでしょう?


 



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