鞄の中に入れておいたタオルを傷口に当てて止血をする、触った感じではあまり傷は深くないみたいだけど…出血量は半端ない。真っ白なタオルはたった十数秒で真っ赤に染まり、止む気配のない雨と傷口から流れ出る血のせいで既にぐっしょりだ。
「っ、たぁ……」
少し体を動かすだけで腹部に鋭い痛みが走る、動きたくはないけどこのままここに居るわけにもいかない。歯を食いしばりながら立ち上がって落とした鞄を拾う。傷口のある右腹部を隠すようにそれを持った。
朦朧としている意識と歪む視界の中、一歩進む度に傷口からごぽりと血が出るのが分かる。なるべく負担をかけないよう気をつけてはいるけど…妖館に着く前に出血多量と痛みで意識を飛ばしてしまうかもしれない。
(ああ、もう今日は一体何だって言うの…)
委員会から始まりまさか同じ先祖返りに襲われるなんて…おまけにこんな怪我まで負ってしまった。もし今朝の占いで獅子(貴方の星座)座が一位を取ってたら絶対苦情の電話入れてやる。…って、そんな気力と体力は今の私にはないけど。
妖館まであと少し、その少しの距離も今の私にはかなり長く感じる。気を弛めればすぐ倒れてしまいそうな体に鞭を打って妖館の門を潜る。ちらりと後ろに目をやれば血の道が出来ていた。…これ、雨で流れる、よね…?
「名前さん!」
エントランスに入るなり眉間に皺を寄せた双熾が駆け寄ってきた。ずぶ濡れの私の髪と顔を彼は用意していたタオルで優しく拭いてくれる、いつもなら嬉しく感じるその行為も今は痛みのせいで苦痛にしか感じない
「心配したんですよ?学校に連絡すればもう帰ったと言われ、いくら待っても帰ってきませんし…」
「あ、はは…ごめんね。」
「笑い事じゃありません!」
本気で心配してくれたらしい、彼の目にはうっすらと涙の膜が張っていて色の違う左右の瞳がゆらゆらと揺れていた。
「早く部屋に戻って体を温めましょう、そのままじゃ風邪を引いてしまいます」
「そうだね…あ、ま、待って!」
私の手を引っ張ってエレベーターへ連れて行こうとした彼の手を逆に私が引っ張った。
「名前さん?」
「あ…えっと、先に部屋に戻ってるからラウンジで紅茶淹れてきてくれない?昨日茶葉が無くなっちゃって…」
「分かりました。それまでにちゃんと体を温めておいてくださいね」
「うん、ありがと」
彼はラウンジ、私はエレベーターへ。自分の部屋がある5階のボタンを押せばゆっくりとドアが閉まっていく
「っ、はぁ…」
完全にドアが閉まった所で緊張が解けたのか足から力が抜けてずるずるとその場に座り込んだ、それと同時に痛みも強くなって額に汗が滲みだす。傷口を抑えていた手を外せばべったりと血がついていて、爪の中まで真っ赤に染まっていた。
「……これ、どうにかしないと…まずいかも…」
とにかく体を拭いて包帯でぐるぐる巻きにしよう、ちょっと動いたくらいじゃ開かないくらいギチギチに。本当は病院に行った方が良いんだろうけど、絶対バレる…アイツに関わるのは危険だ。いくら双熾が強いと言っても、絶対に関わらせてはダメだ。
(…それにしても、何故私のことを知っていたのだろう。百鬼夜行ってなに?プレゼントって…?)
チーンと音が鳴ってドアが開く、電光掲示板に目をやれば「5」という文字が表示されていた。……とにかく今は止血をしなきゃ、考えるのはそれからだ。